2016年9月8日木曜日

恩田侑布子「核の傘いくつひろげて天の川」(『夢洗ひ』)・・・



恩田侑布子第四句集『夢洗ひ』(角川書店)、夢違いならぬ夢洗いなどと、いかにも恩田侑布子らしい、はかなげな書名である。古典に材をとった美意識の句が多いのだが、ブログタイトルにした「核の傘」の句、彼女にはこのような句をなす一面があるということも記しておいていいだろう。他にも、

    列島の手と足に基地原爆忌
    三つ編みの髪の根つよし原爆忌
    柱なき原子炉建国記念の日
    
ただ、本領としては、恋歌として読める句も多く、読もうと思えばなべてそう読めてしまうという傾向もないではない。さしずめ虚の世界に遊ぶつもりだろう。そうした姿情は、ナイーブだが、同時に顕示する心根をうかがせもする。
「あとがき」に以下のように記す。

 ちょうどこの夏、背山の竹やぶに笹百合が咲きました。うすい朱鷺(とき)色の花びらの奥に、青磁色が明るく透きとおっています。種が花を咲かせるまで、蟬のように地中で七年以上を睡る幻のような花です。夏目漱石の「夢十夜」の第一夜に出て来る百合は、これかもしれません。風に揺れる笹百合からわずか三間ほど離れた斜面に、ナメクジに手足といった体(てい)の穴熊が住んでいます。夜ごと巣穴から、魑魅魍魎(ちみもうりょう)のような鳴き声と足音で、網戸のそばまでやってきます。八月からは猪の出番。勝手口のとびら一枚向うがヌタ場に変わります。楚々とした花と、鋭い歯牙の獣にかこまれた峡中に、早や四半世紀を過ごしました。

これもまた羨ましいといおうか、見事な俳句的生活というべきかもしれない。
ともあれ、以下にいくつかの句を紹介しておこう。

   しろがねの露の揉みあふ三千大千世界(みちおほち)
   翳もはやなき冬蝶の息(いこ)ひたる
   もう居らず月光をさへぎりし父母
   握り返すそこになき螢かな
   立つたまま添ひ寝をさせて大冬木
   磐一つ空(くう)のすみかや冬の旅
   夭夭とみづまなこにもさくらにも

恩田侑子(おんだ・ゆうこ)1956年静岡県生まれ。「豈」同人。






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