2016年9月28日水曜日

武馬久仁裕「『地理學家咖啡館に俺はいるぞ。』と双々子」(『フィレンツェよりの電話』)・・・



武馬久仁裕散文集『フィレンツェよりの電話』(黎明書房)は、最初に小川双々子「地表」117号(1975年8月)に載った「花の散る」以来、「爾来四十一年。悲しみの生まれた時に書いた文章が幾つか溜ったので、そこから二十六編を選び一冊の本にすることにした」(あとがき)という。
見返しを包むカバーの裏部分には、

 フィレンツェから「私」の携帯に突然掛けきた見知らぬ女が語り始める「電話」。
 マラッカの珈琲店で著者の俳句の師、小川双々子の幻影を見る「地理學家珈琲館(ジオグラファー・カフェ)にて」。
G町の地下に並ぶスロットマシンに憑かれた男の語る「スロットマシン場」。
など句集『G町』『玉門関』で評価が高い俳人・武馬久仁裕の幻想的な散文26編。自作のスケッチ、写真を併せて収める。

と惹句がある。句集『G町』に収められた散文「G町にて」に、かつての愚生は、高柳重信の句集『山海集』に収められた散文「不思議な川」を想起したりしたことを思い出した。
ところで、地理學家咖啡館(ジオグラファー・カフェ)はマラッカに実在するらしい。その時に撮った写真も併載されている。地理學家咖啡館の面している旧市街の道路の描写のところで、師にあてた手紙を書く描写は・・・、

  黒い影がアスファルトの道を斜めに横切りました。燕でした。
燕は目のような窓から飛んできます。『囁囁記』の双々子の句が思い出されました。

  黒町の窓なきときはつばくろとび      双々子
  男のかほかたちぞありて白町は      双々子

 双々子の句を口づさむ私の背後、地理學家咖啡館の薄暗い奥の席から双々子の少し怒ったような声が聞こえてきました。

 「地理學家咖啡館(ジオグラファー・カフェ)に俺はいるぞ。」と双々子 久仁裕

 双々子の死は、私が地理學家咖啡館を訪れた一年前の二〇〇六年一月のことでした。
  益々のご健吟を。                       草々
  二〇一〇年十月二十二日                  武馬久仁裕


最近の武馬久仁裕は、俳句もさることながら、散文、句の朗読、書など、実に多彩に活躍の場を広げてきている印象がある。それも自在に、かつ芯を外さずに・・・である。
武馬久仁裕(ぶま・くにひろ)1948年愛知県生まれ。


                    キンモクセイ↑
 

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