2019年1月16日水曜日

大本義幸「くれるなら木沓がほしい水平線」((北の句会報別冊「大本義幸追悼資料」より)・・・



「木靴(きぐつ)」(「北の句会報別冊・大本義幸追悼資料)、これをまとめたのは丸山巧で、「北の句会 報告」の冊子と同じく丸山巧の手作りである。内容は、2003(平成15)年12月7日句会(句会報では6号)から、昨年5月30日句会(92号)までの全投句115句を収載(これ以外に前身の「豈関西句会」、冊子に載っていない「北の句会」については堀本吟が追加調査中)。また、平成20年の句集『硝子器に春の影みち』(沖積舎)の出版を記念して、北の句会全員から、句集からの70句選と、それによって北の句会が選んだ「大本義幸句ベスト」の再録が収録されている。その結果、最高点10点を獲得した句は、

   くらがりへ少年流すあけぼの列車 《第一章「非(あらず)」》10点
 
であり、以下、
   
   初夢や象がでてゆく針の穴       8点
   わたくしがやんばるくいな土星に輪   7点
   硝子器に風は充ちてよこの国に死なむ  6点
   密漁船待つ親子 海光瞳を射る朝     〃
   匙なめて少年の日をくもらせる      

 と続いている。これらの句と、「BLOG 俳句新空間」(第105号・1月11日)の筑紫磐井篇・大本義幸追悼特集「大本義幸 俳句新空間 全句集」約170句収録を加えれば、『硝子器に春の影みち』(平成20年刊)以後の「豈」誌以外に記録された句のほとんどすべてを見渡すことができる貴重な資料となるだろう。
 同封されてきた「北の句会 報告」(2018年9月 秋分号)には、3月定例句会(2018年3月18日・大阪市福島区民センター)大本義幸の欠席選句コメントが載っている。以下に再録しておこう。

 風船を何処までも老ひ風となる   中山登美子
  発想の類似句はありそうだが、「風となる」の遠近法がいい。
 風船を配る税務署春浅し       岡村知昭
  リアル、今頃の景。
 いつまでもある鉄橋下の赤風船    島 一木
  少年の思い出のように忘れられない赤い風船
 血がうすくにじんでいたり薄氷   谷川すみれ
  見たくもない光景だが、そんなこともあるのかと。
 ひらがなになってひさしい嚏かな  岩田多佳子
  漢字で、くしゃみをする人もいないと思うが、作家が老いて。

 因みに、この号は、野口裕句集『のほほんと』の出版祝賀会(8月26日、於:カルメン)が行われ、出席者それぞれによる句集『のほほんと』の10句選を持ち寄り、充実した会の様子も記されいた。
 ともあれ、追悼資料『木沓』より、いくつかの句を以下に記しておこう(攝津幸彦に関する句はすべて)。
 
  幸彦忌鹿のみむれて哀しけれ         (6号)
  黄砂は黄泉(よみ)でおこった津波だろうか  (7号)
  桃の花つよく匂う夜に腐乱死体の弟といるわが生家 (8号)
  マフラーを頂きまする幸彦の         (15号)
  コスモスはかたかなで書くさようなら     (16号)
  薄氷(うすらい)のなか眼をひらくのは蝶だ  【折句「うめだ」】
  ゆめをみている獺である朝桜         (20号)
  朽葉(わくらば)の墜ちるはやさのわがいのち (23号)
  海をてらす雷(らい)よくるしめ少年はいつもそう (25号)
  薄氷(うすらい)を踏んでいたると鳥翔てり  (26号)
  銀河ありもんごろいどの青痣あり       (31号)
  硝子器に春の影さすような人         (32号)
  形代の鼓動のはじめいなびかり        (34号)
  ふらここのゆりやみしかば死人充つ      (42号)
  ギーと漕ぐ自転車の思想で冬を越し      (48号)
  ぼうたんは異界のにおい濡れており      (51号)
  片影を昼とおもいぬ幸彦も          (59号)
  雨の消印であるかけさの白鳥(しらとり)は  (61号)
  しはしろくてぷよぷよゆきよふれ       (62号)
  死にきれず飽かずみているいぬふぐり     (66号)
  大根は輪切りに死は平手打ち         (67号)
  わっせわせ肋(あばら)よ踊れ肺癌だ     (68号)
  たんぽぽが死にたいと云う夕暮れだ      (69号)
  天上に渦この硝子器に塩軋み         (71号)
  その先に死が見えるかも検査する       (76号)
  凡庸に生きて六度の癌を賜る         (77号) 
  貧困のブレないかたち黄砂来る        (79号)
  螢来よ水の象(かたち)に眠る姉       (80号)
  癌はこわいよ幸彦、巨泉既になし       (82号)
  わが声は喃語以下なりこの冬は        (84号)
  又の世は豆腐になって生まれたし       (88号)
  わが死後も晴れていつかと聞く天気      (89号)
  死を運んで紙風船がやってくる        (91号)
  われわれは我ではないぞ烏瓜         (92号)




 思えば大本義幸は、この浮薄にみえる現在只今を、そうばかりではないぞと全霊で詠んだ、現代版境涯俳句とでも言える句句であった。 

 大本義幸(おおもと・よしゆき)1945年5月11日~2018年10月18日。享年73.愛媛県西宇和郡伊方町に生まれる。愛媛県立川之石高校文芸部一年上に坪内稔典がいた。その坪内稔典とともに「日時計」「黄金海岸」同人で、「現代俳句」(ぬ書房)創刊に尽力した。  


             撮影・葛城綾呂 ↑

0 件のコメント:

コメントを投稿