2019年1月5日土曜日

橋本薫「初鶏の軋むがごとく啼きをさむ」(『青花呫』)・・



 橋本薫句集『青花呫』(深夜叢書社)、黒田杏子の帯文に、

 雪原の真清水

 北陸は加賀市の山里に工房を構える陶芸家、橋本薫さんの俳句に出合うたび、私のこころに浮かび上る言葉。
 またとない同志であった陶芸家のつれ合いを看とられ、母上を天上に還された。
 孤愁を楯に、悲愁を一行の詩に飛翔させる金剛力をこの人は蔵していた。
 はれやかにピアノを弾き、悠々と歌仙を巻く。この国にめったに居ない本物の読書人、橋本薫さんの長年にわたる句友であることを誇りとして、私はずっと生きて来た。そう思う。

 とある。少し長めの著者「あとがき」には、

 冷たく滑らかな磁肌に透く青の静けさ。
 絵画における青の歴史がラピスラズべリとアズライトの歴史だとするなら、焼き物の青はコバルトの歴史といえるだろう。中東からもたらされた回青が中国の元の時代に染付の技法として完成された。(中略)それは透明な釉薬の下に描かれた、永遠に触れることのできない青の世界だ。釉下に描く染付のことを中国では青花といっていたそうなので、集名はそこから。
 青は天使の服の色、壺に閉じ込めても、直に触れることのできない、はるかな憧れの色である。

としるされている。ともあれ、その壺中の句々より、以下にいくつかを抽いておこう。

  壺の口撫づれば響く天の河      薫
  水底の鐘の音淡海雪となり
  つづれさせとぞ死にゆける人泣かせ
  つばくらめ形見の呉須も尽きなむと
  虎鶫おまへも朝がこはいのか
  綿虫が指に手紙の来さうな日
  一輪草剪る夢を見し剪りてあり
  蕗の薹煮つめて星の生るるまで
  骨色の月光踏めばぴしと鳴り
  錆びてをる濡れをる残る虫たちも
  葉に触れて葉に触れてまた落葉立ち
  聞き知るや軍靴の音を冬木立
  冬木の芽こぞれる夢に音なき日
  
 橋本薫(はしもと・かおる) 1949年生まれ。須田靑華に師事




0 件のコメント:

コメントを投稿