2019年1月4日金曜日

我妻民雄「ウシハコベ・ウマノアシガタ被曝せり」(『現在』)・・



 我妻民雄第二句集『現在』(現代俳句協会)、近年には珍しい簡明な序文は高野ムツオ。全文を以下に記しておこう。

 我妻民雄の詩心を衝き動かすものは超脱願望にある。かつて、そんなことを記した。本書は、永遠に叶うはずのないこの願望の炎を更に高くして、俗界の諸相を暴こうとする挑戦の句集である。諧謔は万象への愛を母胎にすると知らされる。

 集名に因む句は巻尾に置かれた次の句だろう。

   現在はつまり生前笹子鳴く      民雄

 著者「あとがき」には、

 何げなしに遣う「現在」は、実は切ないほど短い。つまりは過去と未来との接点。またはそれを含むしばらくの間である。接点としての現在は、未来を薄くし過去を厚くする。
 百年と刹那とは、セシウムの半減期から見れば同じかも知れぬが、生き身にいわせれば言葉自体が矛盾を抱えているように思える。言葉は文脈を与えられることにより意味が限定される。句集もまた文脈の一つである

 とある。過去が厚さを加えるに従い、誰しも止むをえないことだろうが、句友に捧げられた追悼句をまず挙げよう。

     悼 田中哲也
  榠樝の実おとがひ細く人は逝く
     悼 大森知子
  多島海ひとりの渚寒からむ
     悼 岡部桂一郎
  天に酒星ありと冬帽笑へりき
     悼 佐々木とみ子
  角巻の麗人過るよされ節
     悼 平松彌榮子
  鶴ほどのかろき柩を運びけり

以下は、愚生の好みに偏すが、いくつかの句を挙げておきたい。

  百年のさくら百年校庭に
  この星は風の容れもの黄砂来る
  哲也来る土手のすかんぽ振りまはし
  蕗の薹いつぱい合掌がいつぱい
  茅花流し人類だけが嘘をつく
  雑巾をさがす八月十五日
  空爆の空につながり冬茜
  地上から照らされてゐる鰯雲
  亀の手食つたか鍋破はまだか
  迂闊にも息もらしたり水中花
  飛ぶといふより初蝶の飛ばさるる
  一機一弾二シテ万死ノ晩夏
  終着のつぎは始発や雪催
  
我妻民雄(わがつま・たみお) 昭和17年 東京・台東区根岸生まれ。
  

0 件のコメント:

コメントを投稿