2019年1月21日月曜日

石山ヨシエ「漆黒の水に刺さりし冬薔薇」(『自註現代俳句シリーズ・石山ヨシエ集』)・・・



 『自註現代俳句シリーズ・石山ヨシエ集』(俳人協会)、本著は、石山ヨシエ自選100句にそれぞれ短い自句自解を自註とした体裁をとっている。略歴によると、「沖」を経て「門」創刊に参加されいるので、自ずと師との対話というか、故人となってからは、追慕の念が顕著であるが、おおむね直接的に句に描かれていないのも多く、自註を読むことによって、その背景がわかる。例えば(本書では作品は総ルビだが略した)、

   哀しびの押し寄せてゐる梨の花     平成二五年作

 四月十日ご逝去された鈴木鷹夫先生。折しも咲き満ちた白い梨の花が哀しみを象徴するかのようだった。同時作に〈逝く人に白きはまれり梨の花〉。

 とある。また、

   四十九に足す初蝶の白さかな      平成九年昨
 
 五十歳を前に初心に返りたかった。その時、六十九歳だった鈴木鷹夫主宰は「僕は一体何を足せばいいのだろうか」と。

 あるいは、

  月もまた夜桜に添ふ上野かな      平成二十六年作

 「門」の全国大会が上野の「精養軒」で行われた。帰りに夜桜を眺めながら坂を下る。確か満月だったと思う。月が鷹夫先生に思えた。

 という具合である。ともあれ、いくつかの句を挙げておこう。

  階段の梅雨のせゐではなき暗さ
  神在りの不老橋ゆく手ぶらなり
  大氷柱虛の中にして育ちけり
  中空の春まだ浅し鳥雫
  晴天や胸で切りたる蜘蛛の糸
  明滅のやがて螢の木となりぬ
  初凪やまことの形を草も木も
  八月の雲なき空を怖れけり
  湖底いま銀杏黄葉のはなやぎに
  
石山ヨシエ(いしやま・よしえ) 1948年、鳥取県生まれ。


          撮影・葛城綾呂 白梅↑

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