2019年1月20日日曜日

中井洋子「国旗掲揚の当番亀鳴けり」(『囀の器』)・・・

 

 中井洋子第二句集『囀の器』(ふらんす堂)、集名の由来は、

    囀がまるい器になつてゐる      洋子

 の句に拠っている。跋は高野ムツオ「その詩魂のありか」。その句を抽いた文中に、

   シリウスに耳がもつとも繋がりぬ

 冬空のシリウスを見つめながら、シリウスと会話しているという句である。「繋がりぬ」が見えない糸電話を想像させる。シリウスは地球に近い恒星で光度もおおきく全天でもっとも輝く星の一つだ。それでも距離は約八・六光年。想像を超える遠さだ。その星と直接繋がっていると断定する大胆さ。そう納得させてしまう力技と方法が中井洋子なのである。言葉を五七五の空間に自分の感覚のみを頼りにできるだけ遠方へと放つ。その言葉と互いに引っ張り合う。その緊張感の中に新しい世界を創造する。

 と、記してたたえている。先師・佐藤鬼房を悼み、想いをはせる句も多い。

    鬼房逝師く
  三寸の麦へ還りしベレー帽
  拳もて袖通すなり鬼房忌
  鉄骨に透けし一山鬼房忌
  外套の鬼房尋ね来る夜明
  
 他にも悼み、惜しむ句がる。

    よし宏師逝く
  旅立ちのめがねに憩ふ青葉光
  薄暮光田中哲也と見し魚道  

 ともあれ、集中よりいくつか愚生好みの句を挙げておきたい。

  綿虫はこの世のところどころ飛ぶ
  わが齢にわが身近づく水蜜桃
  そこまでとそこまでと狐火進む
  父の闇いま我の闇菊咲きぬ
  春のそらより降りてきし乳母車
  白鳥のゐぬとも言へず蔵の中
  大芋虫この世の声を出してみよ
  螢火のひよわを支ふほたるの火
  いくさごの飢えのかたまり大西日
  我も鼬も寝入る呼吸になつてゐる

 中井洋子(なかい・ようこ) 1941年、栃木県生まれ。 



          撮影・葛城綾呂↑

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