2019年1月25日金曜日

白戸昌夫「セシウムや縁は異なもの筍に」(『青田』)・・



白戸昌夫第一句集『青田』(文學の森)、集名に因む句は、

  生き方を問はれて眺む青田かな    昌夫

である。他に類似の句が、
 
  にはとりの声滑り行く青田道

がある。序文は大牧広。その中で、

  秘密保護法山河の冷えし深き霧

 この法律の点について細かく云々しないが、「知らせない」「聞かせない」「言わせない」の七十年前の戦前の空気をそのまま移し替えたものだが、こうした重苦しい法律を、そのまま「深き傷」と措辞した作者の、むしろ、デリケートな気持に深い共感を持つ。
 この句から私は『夜と霧』の、あの鉄格子を思わずにはいられなくなる。

 と記している。また、著者「あとがき」には、

(前略)私のやっている農業は零細で業として成り立たないという厳しさ、後継者がいないという切実な問題はありますが、祖父母の時代からの農業です。細やかながら国の農業を支える一人としてやっていきたいと思っています。
 句集『青田』には農業に関わる句が多くありますが、これからも農業人の視点から俳句の言葉を紡いで精進したいと思っております。

 とある。加えて、師の大牧広の言「俳句は趣味でもあるが、それを貫くところに生きた証につながる文学としての俳句がある」(中略)「私によってこの『生きた証』という言葉は非常に重く、他には俳句をする意味を見出せません。それ程、強烈な動機付けになっております」という。ともあれ、集中よりいくつかの句を挙げておこう。

  ポケットに吉だけ貰ふ初詣
  放射能あまねく降りて文化の日
  鮎食べる母は幸せ測るかに
  吾亦紅出会ひし妣は老けをりて
  除染せし限界村も新暦
  積極的平和を形にすれば蟻地獄
  田まはりのぐるりと田水回しけり
  菊月の生者るいるい無言館
  黄砂降る孔子の徳とPM2・5
  毟りても毟りてもなほ草むしり
  非正規の農夫で生きて暮の秋
  
白土昌夫(しらと・まさお) 1952年,茨城県笠間市生まれ。


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