2020年5月3日日曜日

池田澄子「母よ貴女の喪中の晦日蕎麦ですよ」(『読む力』より)・・



 井上弘美『読む力』(角川書店)、「あとがき」にあたる「おわりに」に、

 本書は『俳句』に連載した内容に、新たに書き下ろした四編、一二句を加えて再構成した。
 連載時は毎月男女二人の近刊句集を取り上げ、季節に合わせて、冒頭にそれぞれ一句を立てた。そのため、取り上げる句集や作品に制約があった。

 と記されている。ブログタイトルに挙げた「母よ貴女の喪中の晦日蕎麦ですよ」澄子の句には、

  掲出句は、「母よ」という呼びかけで始まっているが、これは、日本の詩歌の伝統的な手法である。命の根源へ向かって発する、いわば究極の呼びかけであって、後に続くどんな言葉をも呑み込んでしまう。そんな呼びかけに、「貴女の喪中の晦日蕎麦」と続けられるのは作者だけだろう。大方の予想を裏切る仕掛けを、作者ならではの手法と文体で作るのが氏の魅力だが、母の死をこのように描いてみせた手腕には圧倒される。

 とあった。最終章「Ⅳ 構成力の可能性ー友岡子郷『貝風鈴』三三句を読む試み」は巻末に句の分析表まで作成している。もうずいぶんお会いしていない。友岡子郷も八十歳代半ばだろう。元気にお過ごしだろうか。「初蝶」子郷の句が記憶に残っている。ともあれ、本書中より、子郷の句をいくつか挙げておこう。

   皿に盛りたる枇杷程ほどの歳の差か     子郷
   明易や鳥食みのもの庭に撒き
   よろこびはかなしみ誘ひ滝白し
   十一面観音穭田となりぬ
   精霊蜻蛉龍太碑に龍太居ず

 井上弘美(いのうえ・ひろみ) 1953年、京都市生まれ。




★閑話休題・・・羽村美和子「バッグから尻尾出ている暖房車」(「ペガサス」7号より)、森須蘭「脊柱麻酔ずっと覚めないチューリップ」(「祭演」59号より)・・・


 前掲の池田澄子が「豈」同人、その同人つながりで、「ペガサス」「祭演」の「豈同人」の一人一句を以下に挙げておきたい。

  点描の最後の一点鳥雲に       中村冬美 
  絶望するにはちょうどいいマスクだ 羽村美和子
  ふきのとう母の心音かとおもう    坂間恒子
  うっかりで家族になって花筏     森須 蘭
  卒業の「以下同文」の子の笑顔    川崎果連
  葉牡丹が空を回してくる朝     杉本青三郎
  


撮影・芽夢野うのき「五月闇綿棒に似て家無し子」↑

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