2022年9月2日金曜日

天沢退二郎「むかご噛めば地球のつぶれる音がする」(『アマタイ句帳』)・・

             

 天沢退二郎『アマタイ句帳』(思潮社)、栞文に、髙橋睦郎「アマタイ流」、関悦史「横紙破りの絶景」、吉増剛造「アマタイの光、不可能の光」。高橋睦郎は、その結びに、


  そこには一九六〇年代から二〇一〇年代まで、現代詩に、フランス詩校注に、宮沢賢治再読につねに第一線を駆け抜けた天沢退二郎なる稀代のホモ・フマ二スタスの、意外なほど天真爛漫な子供の魂が眩しいほどだ。


 と記し、関悦史は、


 天沢退二郎は幼児性に恵まれた書き手と思われるが、『アマタイ句帳』においてその資質は、俳句という装置の構造やはたらきには頓着せず、イメージを十七音にみたしつづけるという形をとってあらわれた。


そしてまた、吉増剛造は、


 たとえば「蓮沼を自転車(チャリ)で立ち去る悪魔かな」。ここには、チャリとルビが振られていて、このルビの宝石、別宇宙への道をわたくしたちは幻視しうるのだ。現代詩の黒潮のような潮流をつくった天沢退二郎・・・ちなみに「アマタイ」と渾名したのはわたくしの最も親しい友の井上輝夫であった。一九五九年だったか、六〇年であったか彼が言いだした・・・アマタイの切り拓いてくれた、途方もない言語の暗黒成分、あるいは台風の、あるいは宇宙が潰れるときの音のような道が、このルビと自転車のあいだの道には潜んでいるのだ。


 と記していた。「後記」はマリ林、その中ほどから、


 数年前NHKの俳句番組に出演した時「あれえ?退二郎は句も詠むんだ!」と、わたくしが驚きましたところ、「遊んでるだけ!」二ヤリと笑った。時々わたくしが登場するのも嬉しいことである。(中略)

 本人は散歩途中道路で転び言語中枢を負傷し只今入院中でございますが、『アマタイ句帳』が出来ることを心より楽しみしております。(中略)句帳の話が進み始めると退二郎もかなり出てくる言葉数も多くなり回復が見込めるかも知れないと思えるようになりました。

母痴れて芭蕉きたりとそをたたふ

モナムール 君有らばこそ 生きめやも

                  二〇二二念五月 マリ林            


 とあった。ともあれ、総数約1200余の句の中から、愚生好みになるが、いくつかの句を挙げておこう。


   冬の本行間に註こだまして         退二郎

   註を食って冬生き延びた紙魚も居て

   牡蠣食へば枯野を白き霧の這ふ

   ひなげしの図星に女王(スター)惑乱す

   註はいいわよあたいはどうよと索引も

   からごろも着てみて見てみ冬の雲

   乳の出る草あれば母はなくてよし

   武装して蟻の出てくる春の孔

   ポケットに悪意を秘めて野火を焚く

   罪と蛾はいづれ陰火に集(たか)り来る

   山茶花(サザンカ)は山茶(ツバキ)もどきを悲しめり

     擦過するもの・秋元潔追悼

   時の霊ら白き舟にて雨(ふ)り来たる

   さにあらず花は実の実は花の夢にすぎぬ

   雷雨とか余震とか虚実に嬲(なぶ)られて

   蓮の花終れば彼岸花まで更地

   夜はいつも疾走して月の死を看取る

   デコポンの「デコ」には魔女が住んでいる

   冬将軍常夏の国さ行けば神様よ

   列島を猛暑と熱中屍が雁行

   トゲのない野茨はそも偽物よ

   この春は空飛ぶ河馬が雪の神!

   次の冬は犬じゃらしの野原で遊びませ


 天沢退二郎(あまざわ・たいじろう) 1936年、東京生まれ。 




★閑話休題・・春風亭昇吉「錦秋のショーウィンドーに映る黙(もだ)」(プレバト9月1日放送)・・


 昨日は、TVプレバトの放送で、久しぶりに、われらが遊句会の春風亭昇吉の登場だった。遊句会は、コロナ禍ですでに3年間も開催されていない(何しろ、飲み食いしながらの句会だったので)。春風亭昇吉は、かつて遊びながら、かつ真剣に作っていた俳句も、夏井いつきのプレバト出演をきっかけにして、この間に、本業の落語では、真打にも昇進し、かつ、俳句も本格俳句の道を歩き始めているらしい。梅沢富美男には、「上等な俳句」だと言われ、夏井いつき先生には、添削無し!の褒められられようだった。



  もっとも、春風亭昇吉には、すでに二冊の著書(下の写真)、『マンガでわかる落語』(誠文堂新光社)・『東大生に最も向かない職業』(祥伝社)もある。

 


 ともあれ、次回は.プレバト決勝戦に進む可能性もあるらしい。健闘を祈りたい。

 


     
 芽夢野うのき「夢の字にいささか萎む花は烏瓜」↑

1 件のコメント:

  1. お久しぶりです。お手紙を書こうかどうしようかと迷ってこちらにコメントしてしまいます。母が亡くなって遺品整理をしていたら岡田隆彦と岡田史乃の婚約?の色紙が出てきて天沢さんのサインも入っていたのを思い出しました。

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