2022年9月10日土曜日

干場達矢「ことごとくクラウドに在り虫すだく」(「トイ」Vol.08)・・


 「トイ」Vol.08(編集発行人:干場達矢)、今号から仁平勝を新同人に迎えたとあった。誌面には、作品12句と1ページのエッセイが各同人に配されている。その仁平勝「八月十五日の御昼」に、


  〈八月十五日あのとき御昼食べたつけ  桑原三郎〉

(前略)八月十五日とはつまり、いわゆる玉音放送によって、長かった戦争の終りを国民が知った日である。そこに「終戦記念日」というフィクションが成立している。(中略)初めて天皇陛下の声を聴いた。言葉が難しくてまるで理解できず、そのあとアナウンサーの解説で、どうやら戦争に負けたらしいと分かったという。たしかに「米英支蘇四国ニ対シ其ノ共同宣言雄ヲ受諾スル旨通告セシメタリ」では、庶民には何のことか分からない。

 桑原三郎は十二歳だった。放送は正午の時報に続いて始まり、「玉音」それ自体は四分三十七秒だが、その前に君が代が流れ、前後の解説を含めると四十分ほどかかっている。ちょうど昼飯どきで、まして放送を聴いたあとは「御昼」どころではなかったろう。

 一句は「あのとき」を回想しながら、「御昼食べたつけ」という素朴な疑問にたどりつく。そこには、「終戦記念日」に付随する後知恵が入ってこない。玉音放送を聴いた少年の体験が、まさにリアルな像として伝わってくる。「八月十五日」を詠んだ屈指の傑作だと思う。


 とあった。ともあれ、本誌より、一人一句を挙げておこう。


  寝返りをうつ風鈴の鳴る方へ       仁平 勝

  溽暑の夜のテレビニュースを嘆き合う   池田澄子

  そういえばさっきやかんが飛んでいた  樋口由紀子

  涙腺につつがなき日の姫女苑       干場達矢

  盆花のゆふべひらいてきたりけり     青木空知


 ところで、ブログタイトルにした干場達矢の「ことごとくクラウドに在り虫すだく」は、一読、田中裕明「悉く全集にあり衣被」を思い起こさせたが、たぶん、これを本句としたパロディ―だろう。



    撮影・・中西ひろ美「先輩やいくら摘んでもいい野菊」↑

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