2019年5月9日木曜日

与那覇恵子「この島が この国を変えるしかないと」(『沖縄から見えるもの』)・・



 与那覇恵子詩集『沖縄からみえるもの』(コールサック社)、解説は鈴木比佐雄「沖縄人の『言の葉』の深層を掬いあげる人」には、

  詩篇全体を拝読した際に強く感じたことは、沖縄という場所の暮らしや歴史・文化を背負いながらも、私たちの中に秘められた根源的なことを自らに問いかけて、それをとてもシンプルな言葉で伝えてくれる誠実さだった。沖縄の詩人でありながらも、世界と交流する個人であり、さらに普遍的な人間存在を見詰める根源的な問いを発する詩人である与那覇氏の内面の葛藤が、強くリアルに感じられる生き生きとした詩篇群になっていると考えられた。
 
 とあった。もっとも短い詩篇を以下に引用しておこう。

      ブッレク・ファースト

 闇をこわして
 朝が 来るたび
 人は生まれる
 とろりとした 夢の記憶を
 ぶるりと ふり払って
 少し 生まれる
 射してくる陽に
 少しだけ すきとおって
 きのうの鎖を 溶かされて
 今日に 生まれる
 重みに つぶされずに
 明日も 生きる
 「さあ!」と きのうを振り払って
 今日を踏み出す
 少しだけ 新しい私たち
 今朝も
 トーストのこげと
 コーヒーの香りが
 少しの誕生を 祝ってくれた

 詩集に続いて与那覇恵子は評論集『沖縄の怒り』(コールサック社)を上梓している。跋文を平敷武焦が寄せている。それには、「待望の論壇集を発刊した。氏は十年ほど前から沖縄の二つの新聞の論壇への投稿を続けている」とあって、その二つの新聞について、彼女の詩集の「あとがき」に、

 沖縄の二紙を基地問題に偏っている偏向̪紙のごとく言う人が多い。文学に政治を持ち込むことを嫌う人も多い。しかし、沖縄の二紙が基地問題に偏っているなら、それは沖縄が丸ごと基地問題を抱えこまされている日本の偏向した現実を示しているだけである。日常を生きるということは、その地域の社会問題や政治問題にからみとられた現実を生きることであり、真剣に生きようとすればするほど、それらと向き合わざるを得ない。人が人間社会に生きる限り、書くことはメッセージを伝えるがためであると考える。そういう意味でも、自身の思いを伝える言葉が足りず空を見上げてばかりいる。

 とある。それが、「決意」と題された詩の末尾に以下のように記されているのだ。

(前略)沖縄は 沖縄に帰るしかない
    この国で 沖縄に帰るしかない

    この島で 生きるしかない人々は 思う

    この島を 生きるしかない
    この国で この島を生きるしかない
  
    この島で 闘い続ける人々は 思う

    この国は この島を変えることはできない
    この島が この国を変えるしかないと  

 与那覇恵子(よなは・けいこ) 1953年、沖縄県生まれ。
 

          撮影・葛城綾呂 ハナカタバミ↑

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