2021年4月1日木曜日

阿部鬼九男「晩春の世界をサカナに洪水する」(『黄山房日乗』四月一日)・・・




 「あとがき」に、「一九八六年六月十六日、花火に夜に」とある(原文は、歴史的仮名遣い、正漢字使用)。


 あとがき一、(前略)句日記などもとより好むところではないが、企画に応へて急遽、試行として遊んでみた。

 あとがき二、季節にも天候にもさして左右されない、都会ぐらしの平凡な日日は、日付すら不要な記号と思へる。

四月朔日より五月晦まで、六十一句をどうにか取揃へ得たが、この二ヶ月間、記録するべきことがあったか、否か。

 あとがき三、日常の雑記は非日常への入口探しかと問ふ人がゐた。そんなに巧く日常が屹立してくれはしない。

 寸断された日常は世のカタログ文化を写すばかり。こんなところへ陥ち込みを誘ふのも自虐的快感からであらう。

 あとがき四、(中略)題して〈黄山房日乗〉黴臭い命名ながら、二ヶ月の蟄居の記に相応しく、五番目の私集として字数も整った。


          

                1986年4月1日↑


 ちなみに、阿部鬼九男の師は、晩年の西東三鬼である。その万愚節に、この日録は始められた。


一日、岩成達也『〈箱舟再生〉のためのノート』 体不調でDUB聞きに行かず。

黐黐館主の慫慂により、この稿始める。如何なることになるか見当もつかぬが、とりあへずの第一日。


   晩春の世界をサカナに洪水する       阿部鬼九男


*『黄山房日乗』へ35年後の剽窃譚・・・


  今日より、『黄山房日乗』鬼九男句に、インスパイアされた即刻の句を日々献上したいと思う。もとより、句のレベルは遠く及ぶべくもないが、二カ月間、完走したいと願うばかりである。「あとがき」に「五番目の私集として字数も整った」とあるのは、第1句集が『環』、第2句集が『櫻襲』、第3句集『天秤宮』、第4句集『夏至殺法』に続く、集名が5番目の5文字になる「黄山房日乗」だからだ。

 ちょうど、1年ほど前、日録「安井浩司『牛尾心抄』への40年後の剽窃覃」を始めた頃、都内の新型コロナウイルスは三桁を越えた、という記述があるのをみると、現在の新規感染者数はそのようなレベルではないことに、改めて気づかされる。大阪は東京の感染者数を超え、緊急事態宣言解除後、初の「まん延防止等重点措置」の適用が行われるようだ。

 上掲、鬼九男 句中の「洪水」は、岩成達也『〈箱船再生〉のためのノート』(書肆山田・1986年3月刊)の箱船由来であろう。その装幀は吉岡実。

 阿部鬼九男(あべ・きくお)、1930・10・10~2015・12・19。群馬県渋川市生まれ。本名(善久夫)。第9代NHK会長を務めていたジャーナリスト・阿部真之助(筆名・野山草吉)は大伯父。


        4月1日(木)・・・晴 黄砂


   ダブを聞けず洪水の日の黄龍(こうりゅう)や     大井恒行



     芽夢野うのき「戸惑いの鳥の便りをまんさくへ」↑ 

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