2018年8月28日火曜日

津田このみ「病棟の床の矢印行けば霧」(『木星酒場』)・・



 津田このみ第二句集『木星酒場』(邑書林)、坪内稔典は帯に以下のようにしたためている。

    裸たのし世界よ吾に触れてみよ

 津田このみの俳句は身体が世界を感受している。
 なんだかまぶしく、なんだかおかしい。
 その俳句の私は熱烈なファンだ。

 集名の『木星酒場』に因む句は、

  雪の夜の木星という酒場かな     このみ

 だろう。
 一読、「木星酒場」のような固有の名を詠み込んだ句が多いのに気づく。またそれが一句のなかでいい具合な主張を句にもたらしている。ランダムに挙げてみるだけでもそれが分かる。以下の句がそうだ。

  野遊びやバカボンパパの年越えて
  ダライラマきびきびと行く立夏かな
  ダリのひげくねくねと残暑かな
  天高く林家ぺーとパー子かな
  秋灯ゴッホとテオのようにいて
  火事跡よ松田聖子のポスターよ
  霜の朝眉しかめてもぺ・ヨンジュン
  モーツァルト聴かせてみたき海鼠かな
  ベッケンバウアーという顔をして蛙かな
  膝抱え川上弘美読む̪̪霜夜
    
ともあれ、他にいくつかの句を挙げておきたい。

  恋人をよじ登りたる蟻ひとつ
  夫もと好きな人なり桜の実
  寒林をバルビゾン派として歩む
  「あ」と言えば「あ」と返したる初鏡
  飽きるまで見つめて飽きて冬の波 
  すぐ傷む苺と家族と愛人と
  桃の花元気と決めてから元気
  もやもやの下界のあれを花と言う
  ああ蟹はくすぐったいね蟹の穴

津田このみ(つだ・このみ)、1968年大阪生まれ。 


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