2022年12月25日日曜日

姜琪東「下駄はいて日本の正月しか知らず」(「俳句界」2023年1月号より)・・

          

 

「俳句界」2023年1月号(文學の森)、特集は「必読!俳人たちの名文」と「思わずうなる!上五・下五」である。が、本号の表紙には記されていないが、姜琪東の久々の登場は特筆すべきであろう。特別対談・姜琪東(文學の森顧問)とアドリアン・カルボネ(ルーヴェン大学准教授)「五七五のリズムを守りながら訳す」である。カルボネは高校時代池袋の城西大学附属高校に在学し、また北海道大学では客員教授を務めたことがあるらしい。現在は、ルーヴェン大学の韓国研究センターに居て、そこで姜琪東第二句集『身世打鈴(シンセタリョン)』(1997年刊・石風社)に出会ったという。その対談の中で、


カルボネ なぜそのタイトルに?

 姜   「身の上話」という意味だからね。

カルボネ あとがきには、「いわゆる〈句集〉ではない。俳句という表現形式による一人の在日韓国人による自叙伝」だとありましたね。(中略)ぜひ訳してみたいです。俳句ですから、できれば対訳(注・原文に並べて訳文をしめすこと)のような形がいいですね。フランス語にすることは、意味があると思います。(中略)

 下駄はいて日本の正月しか知らず

これを自分ならどう訳すかなと考えました。やはり俳句ですから形も決まっているし、それをどう訳せば良いのかを考えると、なるべくリズムもそのままにするのが望ましいですね。それで、〈Je ne connais que /le nouvel an japonais/ geta aux pieds〉と。

 姜   フランス語の語調がいいね。

カルボネ やはり、俳句は五七五ですから。このリズムを全く守らない訳者もいますが、私はフランス語でも五七五にしなきゃいけないとおもうんですよね。ですから、「じゅ・ぬ・こ・ね・く/る・ぬ・ゔぇ・らん・じゃ・ぽ・ね/げ・た・お・ぴ・え」になるんです。(中略)ですから、こういうふうに先生の句集を訳したい。


とあった。

 アドリアン・カルボネ(1985年フランス生まれ)。姜琪東(かん・きどん)1937年高知県生まれ)。愚生は、かつて、文學の森に数年、勤務していたが、入社する前に、偶然に属するが、姜琪東句集の『身世打鈴』は読んでいた。現在、85歳ほどになられていると思うが、ご健在のようである。慶賀。ブログ(2020年9月25日付「大井恒行の日日彼是」)にも書いたことがあるので、そこから他の姜琪東の句をいくつか紹介しておこう。


  水汲みに出て月拝むチマの母       琪東

  大山も姜(カン)もわが名よ賀状来る

  冬怒涛帰化は屈服父の言

  残る燕在日われをかすめ飛ぶ

  帰化せよと妻泣く夜の青葉木菟

  ビール酌むにつぽん人の貌をして

  鳳仙花はじけて遠き父母のくに

  父の意にそむき日本の注連飾る

  ひぐらしや嬰に添ひ寝して帰化迷ふ


ほかに、本誌本号には池田澄子「私の一冊」(『啄木寫眞帖』吉田子羊)と小澤實の特別作品21句があった。


  行く用のなき古里の雪予報      澄子

     田尻得次郎

  自首させる友情ありぬ秋のかぜ     實 



        撮影・中西ひろ美「凩や親戚の誰かれに似て」↑

0 件のコメント:

コメントを投稿