2022年12月22日木曜日

恩田侑布子「よく枯れてかがやく空となりにけり」(『はだかむし』)・・


 恩田侑布子第5句集『はだかむし』(角川書店)、その「あとがき」に、


 天空の書斎に恵まれた。冬は安倍川のほかほか日あたる石河原。春は木見色川の花の奥。野山に新茶のさみどりがはしれば、小瀧のそばの楓の下が涼しい。本書はその岩場を机と椅子に、水音を聞きつつ選句にはげんだ。透きとおる若楓はいつか青天井になり、木末のかなたの駿河湾は、すでに秋めく紺青の帯をながしている。(中略)

 ウイーンの古都を抜けて、ドナウ川に会いに行った。(中略)あのモスグリーンの静かな水が、きな臭い黒海、戦乱のウクライナのほとりに流れ入ることを思うと。「核」と地球温暖化は、季語の本意(ほい)さえ変えかねかねない。


 とあった。つい先日、澤好摩と数年ぶりに会い、歓談した。その折、本句集にも話が及び、「冨嶽三十六景」の章、冒頭の「初富士や大空に雪はらひつゝ」は、イイね、と愚生が言ったら、「そうだろ・・、句集にする前に見せてもらったとき、この句がいい、と僕も言ったんだ・・。納得してなかったようだけど・・」と返ってきた。集名に因む句は、


  うちよするするがのくにのはだかむし


 であろう。ともあれ、以下に、愚生好みに偏するがいくつかの句を挙げておきたい。


  身一つ容れゝば縊れ花の闇           侑布子

  つゞれさせゆめには夢をあたふべし

  足もとのどこも斜めよ野に遊ぶ

  なきひとは在りし人なり木の芽風

  形代へ吹く息けもの臭きかな

  春雷の涯(はたて)へひとを送りけり

  あをあをと水の惑星核の冬

    二〇一八年七月オウム死刑囚十三人処刑

  ハルマゲドン骨粉となる半夏生

  南冥へ波上げにゆく瀑布かな

  渦銀河敵も味方もサピエンス

  身一つを谷に漱ぐや銀やんま

  ほそ道やひかり長けたる花ふゞき

  雨あしにくぼむ春水ちゝとはゝ


 恩田侑布子(おんだ・ゆうこ) 1956年、静岡市生まれ。

  


    撮影・中西ひろ美「つやつやの汝に触れむとすれば落つ」↑

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