2022年12月21日水曜日

佐藤りえ「音なく雪 死にも跫音ないだらう」(『良い闇』)・・・


 
  同恵送されてきた「怪談牡丹灯籠双六(かいだんぼたんどうろうすごろく)」↑


  佐藤りえ幻想怪奇俳句集『良い闇や』(発行人・佐藤りえ)、豆本、黒い紙に文字は白であるが、愚生の眼では、豆本ゆえ、当然ながらルーペは必携。やっとの思いで、字を辿っている始末。同時刊行に「九重」3(発行人・佐藤りえ)、こちらは、りえの個人誌で、本号のゲストは小津夜景、夜景の句集『花と夜盗』をめぐるあれこれが書かれている「『花と夜盗』をめぐる12章」。その他の記事は、佐藤りえの誌上歌集と銘打たれた『森の中』120首余。その「九重」の編集後記の結びには、


 戦禍は過ぎました、War is  over. と、ここに書けないことが非常に残念です。同時に今この瞬間もそれぞれの持ち場を守る人々がいることに思いを馳せ続けています。


とあった。ともあれ、句集と歌集から、いくつかを以下に挙げておきたい。


    第五夜

  煉獄へ火の鳥馳せて火のをんな         りえ

    第十夜

  豚を撲ち撲つパナマ帽汗みだれ

    東海道四谷怪談

  裏に女房表に間夫(まぶ)を釘付けに

  麺または人撲つ音や二階より

    肺胞 肺胞 仕置きが好き

  七賢人血斧を負ふて帰り来る

  陽炎へ名前を云つてはいけないよ

  紫陽花の根方に黄泉の渦がある

  身体は次の停留所にて待つ

  歳月を言い換えるのに適当なものさしとして差し出す毬藻

  主よハイドロカルチャーの何たるかを教えたまえよ喧嘩中のわれらに

  あまりにも遠い二本の道のりを並走している、ことにしておく

  よくわからない、は言い訳にならないのかもしれない 飴を飲む夜

  擦り傷とやけどだらけの肌をもつ自分の背中が拭けない天使

  スケルトン・ボーイ スケルトン・ガール 肋の奥に宙吊りの心臓

  二本ある線のどちらか切る場合赤を切るって決めてる天使

  死に様はたくさんあって生き様はまだ埒もない向日葵畑

  動けなくなるその日まで みずからの身体という異国を生きる


佐藤りえ(さとう・りえ)、1973年生まれ。歌人・俳人・造本作家。



★閑話休題・・小津夜景「脈の迅(はや)さの雪はふりつむ」(『花と夜盗』)・・


「九重」3、つながりで小津夜景句集『花と夜盗』(書肆侃侃房)。「おぼえがき」に、


『花と夜盗』はこれまで書いた句からてきとうなものを選び、連作に編み直した句集です。季の配列については意識の流れに逆らわずおおまかに整え、漢字については原則として新字体で統一しました。(中略)

 たわむれに書き散らしたことばを一冊にまとめるのは根気のいる作業でした。どれを採って、どれを捨てるか。どんな香りや風合いとわたしは出会いたいのか。深さや硬さ。淡さや儚さ。悔いや憧れ。で、いろいろ試した結果このようになった次第です。


とあった。ともあれ、集中より、愚生好みにいくつかを挙げておこう。


  千の掌(て)のすゑひろがりの涼しさよ     夜景

  閨に賽投げられし夜の流れ弾

  末法を戯(ざ)れてマッポと花泥棒

  あんぐらあんぐらと月を煮る

    吾有剪刀磨未試

  切れ味をいまだ試さぬ鋏かな研ぎし日のまま胸に蔵(しま)ひて

  瑳翠寓 あいらしくわらふ/かはせみ/かりずまひ

  盈(み)ち 虧(か)けに花はおぼれよ殯(かうもがり)

  道しるべ野暮は夕べのひとめぼれ

  

 小津夜景(おづ・やけい) 1973年、北海道生まれ。



      芽夢野うのき「夜の銀杏どうしても行きたい海がある」↑

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