各務麗至『新編 青蜥蜴』(詭激時代社・セレクション精選集17)、往年の各務麗至がいる。四つの章題「青蜥蜴ー塚本邦雄選」(俳句)、「彩絵硝子の鳥籠ー塚本邦雄選」(短歌)、「陽の棘ー前登志夫選」(短歌)、「秀句館の頃」(エッセイ)。巻末の新編のための「覚書にかえて」には、
昭和五十年頃から文章勉強のために短歌を始め、
塚本邦雄に私淑することになり、詭激時代を送ったり邦雄選のコーナーがあった角川短歌に投稿したり、
昭和五十年、
小文集を纏めた時に塚本邦雄から私信が届きました。
そして、その頃、サンデー毎日で、新春恒例評判の邦雄選現代百人一首があったり、邦雄選の俳句コーナーがあったり、その俳句の選評作を筆書きし、
縮小複写した小歌文集で頂いた私信入りの袖珍豆本の青蜥蜴を、昭和五十五年に発刊したのでした。(中略)
そんな作文初心の頃、褒めの言葉で辛辣に評してくれたことが恋文にも似た最高の激励で、
俳句以前の短歌も抄出して一冊にすべく、
邦雄選だけでなく、同時期の文章修業に邁進していた若い時代が彷彿として、
前登志夫選や文章を所収しての新編成としました。
とあった。ブログタイトルにした「青蜥蜴虚空の塩を睨みをり」には、以下のような塚本邦雄の選評が付されている。
蜥蜴の青と塩の白が句を引緊めた。塩が生殺与奪の権を握つてゐるらしいそのサスペンスが、句の身上。「睨みをり」は窮余の策の感少なからず。
また、短歌には、
まひる野に眠れる二十歳ときはなつ渾沌は朱き狐のかみそり
曼珠沙華よりももつとひりひりと赤い狐の剃刀が、二十歳の危い心の翳を裂く。
野は濃緑、その中心に白昼夢を貪るのは昔の君自身か。
集中より、いくつかの句歌を挙げておきたい。
天降り罅はしる玻璃濯ぎけり 麗至
鳴神の腋窩息づく月見草
亡き人の魂いでて来よ烏瓜
詩歌棄ておのれみつめむ朋浄し目の高さまで海は満ちゐる
左思右想われら噤みて来たりけりかなしきや海のひろごり
われら霏霏と滅びむ死ののちもこころかれつつ地にそよぎをりしや
眸つむれば自虐ととのふ陽の棘ににじめるごとしこの生活はや
ほととぎす迷宮の扉の開けつぱなし 塚本邦雄
酸漿のぬれいろの夕ごころかな 宮入 聖
須佐之男の髪繋ぎとむ葛の花 岸本桂以子
万緑やどこかに死者の背が見えて 江畑 実
塩断ちしのちの霹靂青胡桃 大野美沙代
撮影・鈴木純一「カステラの紙をはがすと雪催い」↑
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