2020年12月30日水曜日

山崎方代「私に早く帰ろう水楢の落葉の下に早く帰ろう」(『山崎方代に捧げる歌』)・・

  


 さとう三千魚『山崎方代に捧げる歌』(らんか社)、著者「あとがき」に、


 この詩集の詩は、二〇一七年七月十一日に書きはじめて、わたしの運営するWebサイト「浜風文庫」に連載し、二〇一八年四月六日に完結したものを詩集として纏めたものです。

  その時期は、身内や友人を失った時期でもありました。

 そのころtwitterの山崎方代の短歌に突きあたり、歌集「方代」を読みました。

 そこには、ひとりの¨百姓¨の男がいました。

 大地から引き裂かれたひとりの¨百姓¨の歌に打たれました。

 この詩集のなかの詩は山崎方代の短歌と出会ったことで書きはじめられました。


 とあった。扉絵は桑原正彦。各詩篇の冒頭には、山崎方代の短歌が措かれている。合計31首。従って収められた詩篇は31篇。ブログタイトルにした短歌には、次の詩が書かれている。

    私に早く帰ろう水楢の落葉の下に早く帰ろう


 夜中に

 林拓のあざらしの恋を聴いてる


 昨日は

 神田の鶴亀で飲んだのだったか

 おじさんたちの隣りでひとり

 飲んだのだったか


 おじさんたちには友がいた


 おじさんは

 おとなしい


 あざらしの息吹のように飲む

 

 早く帰ろう

 早く帰ろう


  もう、一篇、もっとも短い詩を引用しよう。


   おほらかに乳をほりて泣くつゝぬけの声におよばぬ歌を今日も作る


 東名バスで帰った


 昨日は

 サーモンの山葵和えのにぎりを噛み


 東名バスで帰った

 失くしたスマホも帰っていた


 上原で

 詩の包摂ということばに会った


 それから新宿で

 なつかしい山形訛りを聴いていた 

 

 愚生もかつて山崎方代の短歌に魅せられたことがある。本詩篇中より、いくつか挙げておきたい。

  

 声をあげて泣いてみたいね夕顔の白い白い花が咲いてる       方代

 明け方の酒はつめたく沁みわたるこれも供養というものなのだ

 あばら家に突っかい棒をして住んでいる死にたくもなく思わなくなっている

 力には力をもちてというような正しいことは通じないのよ

 幸は寝て待つものと六十を過ぎし今でも信じています

 丘の上をちょうちょうが何かしら手渡すために越えてゆきたり

 こおろぎが一匹部屋に住みついて昼さえ短いうたをかなでる


 山崎方代(やまざき・ほうだい) 1914~1985年、山梨県東八代郡(現・甲府市)生まれ

 さとう三千魚(さとう・みちお) 1958年、秋田県雄勝郡生まれ。


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