2020年12月24日木曜日

照井翠「牡蠣太る海の奴隷の人間へ」(『泥天使』)・・・


 照井翠第6句集『泥天使』(コールサック社)、帯の惹句には、


 句集『龍宮』、エッセイ集『釜石の風』、そして本句集『泥天使』。

ささやかではありますが、私の「震災三部作」が、これで完成したします。


と、また、帯の背には「震災十年目の鎮魂句集」とあった。そして、著者「あとがき」には、


 震災からもうじき十年を迎えます。恐怖の記憶は、薄れてきました。

 穏やかな日々を送っていますが、歯磨き用のマグカップだけは、震災で床に落下し縁が少し欠けたものを使い続けています。時折、ぼんやりして、尖った縁に唇を当ててしまい、血が滲むことがあります。

 このカップだけが、私の手元に残った「震災」です。

 髪も、いまだに自分でカットしています。詳しくはエッセイ集『釜石の風』に書きましたが、美容室へ行って髪を切ろうとすると、またあの日と同じような大地震が来るような気がして足が竦みます。十年も経つというのに、まだ越えられない壁があることに愕然とします。


と、記されている。最終章「滅びの春」には、「コロナにて死ねば抱かるる柩ごと」の句など、疫病禍えお詠んだ句も収載されている。集名に因む句は、


   三・一一死者に添ひ伏す泥天使


 だろう。ともあれ、集中より、いつかの句を以下の挙げておこう。


   黒波の来て青波を呑みにけり       翠

   死が横で息をしてゐる春の宵

   花置かばいづこも墓場魂祭

   生きてゐて死んでゐてする踊かな

   しぐるるや別れぬうちに想ふ明日

   帰り花こんどはこたに苦しまぬ

   死の風の吹く日も麦の熟れゆけり

   地の影も染みも人間原爆忌

   今日はけふばかりのいのち二月尽

   かつてここに人類ありき犬ふぐり

   前兆の火球裂きゆく夏の闇


 照井翠(てるい・みどり) 昭和37年、岩手県花巻市生まれ。


 


       撮影・鈴木純一「彼も死し我も浮きたる柚子湯かな」↑

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