2020年12月5日土曜日

朝吹英和「いとほしむ時の欠片や冬菫」(『光陰の矢』)・・・


 朝吹英和第4句集『光陰の矢』(ふらんす堂)、序は、挿画の勝間田弘幸「『秋』に寄せてと集中の挿画「緋色の刻・蝶々」のエッセイ。跋に冨田正吉「いつまでも音と言葉のロマネスク」、和久井幹雄「朝吹交響曲ー朝吹英和句集『光陰の矢』鑑賞」。集名に因む句は、掉尾の、


   光陰の矢に刺し抜かる晩夏かな       英和

  

 であろう。 和久井幹雄は、


 (前略)朝吹俳句を鑑賞するにあたり『注文の多い料理店』序文結語部の言葉を引用したい。

 「けれども、わたくしは、これらのちひさなものがたりの幾きれかが、おしまひ、あなたのすきとほつたほんたうのたべものになることを、どんなにねがふかわかりません」。

 作者の目指した俳句はこの言葉につきるのではないか。賢治のいう「すきとほつたほんたうのたべもの」とは作られた作品が、読み手の透明な感性に共感と感銘を与えることを示している。

 「時空の旅人」宮沢賢治の考えと、「時空転位の達人」朝吹英和の哲学には、深く通底するものがあり、これが朝吹俳句の原点となっている。

  野を渡る賢治のセロと鶫かな    『光の槍』


 と記している。そして、著者は「あとがき」で、


 (前略)生々流転する時空のクオリアを言霊の力によって結晶させ、現実から異次元の詩的現実の時空へクオンタム・リープ(非連続的飛躍)さながらに飛翔することが私の目指す俳句の姿である。これからも森羅万象の発信する波動(メッセージ)を受容して精進を重ねて行きたい。


 と述べている。ともあれ、愚生好みに偏するが、以下に、いくつかの句を挙げておきたい。


  曳光弾無月の空を焦がしけり      

  レクイエム金木犀を零しけり

  冬雷や鎬を削る赤と黒

  隼の切り裂く荼毘の煙かな

  音階の行きどまりにて鶴凍つる

  血の池を跳び越す白き狐かな

  鎮座せる心御柱(しんのみはしら)風光る

  梅雨の星水琴窟に沈みけり

  補助輪浮輪共に外れし喜悦かな

  心象の襞より生れし螢かな

   

  朝吹英和(あさぶき・ひでかず) 1946年、東京都生まれ。



   撮影・鈴木純一「冬めくやエンド・ロールをさいごまで」↑

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