「儒艮」VOL.34(編集・発行 久保純夫)、「回想録(七)-熊野のことなど」は、愚生もほぼ同時代を歩いてきたせいか、興味深く、面白い。もっとも、愚生らがすでに想い出話ができる年齢に達してしまった、ということなのかも知れない。今回は愚生の名も出てくる(すっかり忘却のかなただったが、そうだったな・・・と思い出すのみ)。そこには、
(前略)こんな経験を重ねながら、『熊野集』を作った。装丁は僕と流美子で考える。黒地に金文字。金色の大小の正方形。帯にはこのような言葉が。「水のエロチシズムに透過し、まつろわぬ魂の揺動に、地霊の誘いを聞く。」大井恒行さんが考えてくれたのだろう。抄出を。
種を蒔き終えし眼と出会いけり
時雨傘見えざるものにひらきけり
たましいのはじめにありし黄水仙
抱き眠る八十八夜の火縄銃 (以下、略)
他にも、「水際に兵器性器の夥し」「水甕の水の深さの国家かな」のなどの代表句を収めている。この『熊野集』によって、久保純夫は現代俳句協会賞を受賞した。そういえば、『熊野集』の原稿をいただき、打ち合わせをしたのは、彼が現俳協の行事などで、東京泊のとき、定宿にしていたらしい品川プリンスホテルで夕食を共にしながらだった。後に、彼の妻となる流美子女史とも初めてお会いした。また、この回のエッセイには、鈴木六林男の蛇笏賞受賞のお祝い会のことも記されているが、六林男から、参加御礼だと言って、贈られてきた毛布は、「ムリオの毛布」といい、我家でいまだに愛用している。ともあれ、本号より、一人一句を以下に挙げておきたい。
糸縒の白身を愛し逝きにけり 久保純夫
摩天楼冬三日月の折れる音 上森敦代
冬日向家族写真を撮りませう 岸本由香
何でもない暮らしの中の栗ごはん 久保 彩
ふくら雀わたしにも鈴つけておく 近江満里子
無人列車過ぐゆく空の曼珠沙華 伊藤蕃果
赤い月人工にして生ぬるき 曾根 毅
大伽藍超え蝶の目的あるように 妹尾 健
牛膝ひざに飛びつく拉致の跡 志村宣子
ゴム跳びの三人の子の耳袋 金山桜子
この翅でやつて来ました隙間風 藤井なお子
梟の求人情報出ていたる 原 知子
撮影・鈴木純一「二人いて寒いと言えば川凍る」↑
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