2014年1月24日金曜日

夢道「僕を恋うひとがいて雪に喇叭が遠くふかるる」・・・


前回に続いて、出久根達郎の話から入る。
出久根達郎のエッセイに「雪に喇叭が」というのがある。出久根の古本屋修行時代のことである。
毎朝、店の前を通る着流しの男性がいて、商家の旦那然とした恰幅のよい人がいた。
それが、俳人・橋本夢道だったが、店に寄ったことはない。
ただ、夢道の家の前を、商いのために汗だくで大荷物を乗せた自転車を押している出久根少年をみて、「あゝ古本屋さん?」とつぶやいたという。
出久根の勤めていた店の丁場には夢道の色紙が掛かっていた。この色紙をあっせんしたのが、坊主頭で堂々とした体格、達磨尊者に似た加藤裸秋という夢道の友人である。
その裸秋が出久根に「君が好きな夢道の句を言ってごらん、それを頼んでやる」と勧めてくれ、選んだ句が、

      僕を恋うひとがいて雪に喇叭が遠くふかるる    夢道

である。裸秋は「うらやましいねえ」と出久根少年を冷やかす。
出久根少年は、徳島生まれの夢道が高等小学校を出ると隣村に丁稚奉公に行ったという経歴を知って、自身が中学校を卒業すると丁稚修行に出たことと重ね合わせて、親近感を抱いたのである。裸秋は「俳唱」というハガキ通信を毎月出して、出久根少年に渡していた。

     たまたま戦没者の杉塔婆 山の人生          裸秋
     田中有罪極ったり鳳仙花の紅白縷(モツ)れたり

橋本夢道の全句集(未来社・1977年刊)の序文は、中村草田男「庶民詩人・抒情詩人 橋本夢道氏」に金子兜太「リアリズムの韻律」、古沢太穂「橋本夢道ーその人と作品」の三名。「うごけば、寒い」は夢道の獄中句。
   
    無礼なる妻よ毎日馬鹿げたものを食わしむ      夢道
    からだはうちわであおぐ
    四天梅雨に路地の栄坊死にし香奠飯粒で貼る
    貧乏桜よ東半球は千四百万トンの春の灰降る
    第二芸術や吾が句集なる菊日和
    

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