2018年9月11日火曜日

白戸麻奈「ダリア咲き明日を白紙にもどしたる」(『東京(バビロン)の地下鉄』)・・



 白戸麻奈第一句集『東京(バビロン)の地下鉄』(ふらんす堂)、序文は山﨑十生。それには、

  このシリーズに、どのような俳人が加わっているのか知る由もないが、私が唯一声を大にして言えるのは、白戸麻奈の句集は、本シリーズ参加の他の句集とは異質と云うことである。(中略)
 オンリーワンの詩を、世界で一番短い詩形式である俳句で表現することに白戸麻奈は身を削っているのである。俳句はたった十七音であるけれども、言語宇宙を構築するには、これ以上ないエネルギーを内蔵している形式である。言葉が長くなればなるほど、反比例して減ってゆくのである。そういう矛盾が、俳句の核であり、諧謔を生み出すのに適しているのである。

 と、白戸麻奈の句業が、他の誰にも紛れることがない、ということに太鼓判を押している。著者「あとがき」にもその片鱗は伺える。その冒頭を、

 家には、体長一・五メートルで翼のある虹色のネズミがいます。

嘘です。冗談です。ただ、この広い大きな宇宙には、そうした生き物が存在するかも知れません。

 と書きだしている。山﨑十生も序のなかで触れているが、第3章「東京(バビロン)のネズミ達」の、「ネズミ」をすべての句に詠み込んでみせた106句は圧巻で、先年、松下カロが句集全体を白鳥の句で覆いつくした方法に似て「どの『ネズミ』も作者の分身とか化身であるよかのようである。『ネズミ』に固執することで自らを慰撫している。」(同序文)とも思えるのである。
 ともあれ、集中の幾つかの句を以下に挙げておきたい。

  新涼が鏡のようにやって来る       麻奈
  白桃や触れなば少年血がにじむ
  白鳥をギュッと小さくしてみたい
  マネキンの陽炎に濡れ並び立つ
  バイオリンチェロコントラバス轡虫
  山笑うすべてのネズミ笑ってる
  月光に跳ねるネズミに跳ねる鮎
  ネズミらとつくつく法師の好む木だ
  ぼんやりと名の木の散るを見るネズミ
  名もしらぬ野菊と名前なきネズミ

白戸麻奈(しらと・まな) 1969年、東京生まれ。


2 件のコメント:

  1. ネズミネズミネズミ、大勢のネズミがそれぞれに、個性をもって呼びかけて来る。さて、困った。ネズミに愛情を持ってしまうと、もうネズミ捕りを仕掛けるのもためらわれてしまう。不思議な感性の作者である。天賦の才能によるものでしょう。

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  2. 蟷螂と対決姿勢ネズミの仔
    天高し絶望的に晴れている

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