堀切克洋句集『尺蠖の道』(文學の森)、第8回北斗賞受賞の作品を基にした第一句集である。跋は伊藤伊那男、それには、
(前略)私にとっての集中の白眉は次の二句である。
ワインの名刻まれてある巣箱かな
シャンパンの函は柩に似て晩夏
ワインの運搬に使った木箱が形を変えて巣箱になる。ワイン名や産地の表示の焼印の残っている箱が命を育む巣箱に再生するという意外性のある着眼点が新鮮である。二句目も酒の箱なのだが、シャンパンの化粧箱を「柩」のようだと見立てた感覚は只事ではない。「晩夏」の季語の斡旋も見事である。パリ留学時代の俳句の面での成果である。フランスの文化や生活が身に付いた上で、根本のところでは俳句的表現を遵守しており、氏の座標軸は微動だにしていないところが心強い。
と賛辞を惜しまない。集名に因む句は、
尺蠖の道ひろびろと使ひけり 克洋
である。ともあれ、愚生好みのいくつかのを挙げておきたい。
さんずいのものことごとく凍返る
耕牛の一歩に変はる土の色
紅梅を絵筆の先にふくらます
空鋏して春光の満ちてきし
フランスのポストは黄色夏近し
手箒といふ文机の初掃除
蛇口みな運動会の空を向く
背の高き父に抱かれ雛の市
行先を食べはじめたる蝸牛
抱きあぐる子の重さにも去年今年
堀切克洋(ほりきり・かつひろ) 1983年、福島市生まれ。
☆閑話休題・・・
大谷清・津のだとも子 展 ↓
大谷清「孔雀シリーズ」↑
津のだとも子「ソラリスの空」↑
昨日は、大谷清・津のだとも子夫妻の個展(於:羅針盤・~9月29日、17時まで開催中)に出かけた。彼らが小淵沢に住まいを移してから、久しぶりの再会である。両人とも、俳人としては、今は無き「海程」において、阿部完市の薫陶を受け「現代定型詩の会」を運営してきた。聞けば土井英一が夕刻に関西より馳せ参ずると聞いたが、愚生は別件のために会えなかったが、お蔭て電話で話をすることができた(もし、彼に会えたとしたら、実に半世紀ぶり・・)。
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