千坂希妙第一句集『天真』(星湖舎)、懇切な序文「命を見つめて」は大島雄作。帯の惹句は、坪内稔典、それには、
九条葱よ下仁田葱につんとすな
この中に月を観た蟻ゐませんか
黒揚羽フランシスコと呼べば来た
しつぽなきトカゲとヒトは間抜けやね
夏痩せて女ちめりんじやこめつてい
以上は千坂希妙の傑作。
俳句って
かほどに奇妙、
かほどに楽しい。
とある。集名に因む句は、
天真は何もない空雪晴れて
であろう。著者は当初、保田與重郎のもとで短歌を学んでいたらしい。それが、義仲寺の裏手にある保田與重郎の墓に詣でた折りに、「激しい雪でたちまち保田與重郎墓の文字が消えてしまった。立ち去りがたい思いでぼくは再び歌を詠むことに決めたのだが、どういうわけか短歌より俳句の方が波長が合うようになっていたようだ。五十三歳ごろから俳句に夢中になった」という。そして、
今後の方向として、今までの反省から知よりも感性に重きを置いて作句をしていきたい。
と記している。そういえば、眞鍋呉夫も保田與重郎に親炙していた。その眞鍋呉夫は愚生に、保田與重郎『絶対平和論』だけは是非、読むようにと言っていた。ともあれ、集中よりいくつかの句を挙げておきたい。
桜花より梨花は冷たき息をする
桜貝いまだ生きたるままを見ず
蛇土葬海月水葬火蛾火葬
汚染土に冬眠の蛇絡み合ふ
春菊に混じるはこべもいただきぬ
平城京から京終までを月を友
註・「京終」(きょうはて) JR西日本の京終駅
元は平城京の果ての意
行く秋や一度合はせる割れ茶碗
氷るとは水が己に籠ること
ジューンドロップ特攻隊に遺骨なし
からくりの首の振り向く青嵐
新涼の似たる龍の眼達磨の眼
荒星に誕生日あり死期のあり
千坂希妙(ちさか・きみょう) 1951年、大阪府生まれ。
撮影・鈴木純一 初氷 ↑
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