北山順第一句集『ふとノイズ』(現代俳句協会)、序は今井聖、その中に、
(前略) 目借時数へるたびに増えてゆく
この句、「数へる」の主語は「私」であると考えていいが、何を数えるのかわからない。さらに「増えてゆく」の主語は何だかわからない。(中略)主語の省略は別にして目的語が省略されることは以前は無かったと言ってもいい。他動詞を用いながら目的語が無ければ文の体を為さない。しかし俳句は文ではなくて「詩」だから何でもありという認識である。
とある。そして、
(前略) 鹿よぎる夜や製本の美しき
夜間だから鹿が「よぎる」のは視覚的現実ではなくて脳裡の想像。製本の美しさは形や色や文字の総体。そして「美しき」も説明できない脳裡の感覚。しかし、読者は「鹿」も、美しい「本」も形としてイメージできる。「や」を境にして想像の中の二つの物象が重なる。イメージの架け橋として切れ字が見事に機能している。
と結ばれている。また、著者「あとがき」には、
(前略)句作を始めてかなり長い期間、私は仮名遣いというものにあまりにも無頓着でいて、これまで書きためたノートを見返すと歴史的仮名遣いと現代仮名遣いのどちらの句も混在しているという状態でした。そのため、句集内の「刺さない虫」の章には現代仮名遣いで書いた句を、それ以外の章では歴史的仮名遣いで書いた句を収めることといたしました。
とあった。集名に因む句は、
義士の日のテディベアよりふとノイズ
であろう。そして、本句集は、2020年、第38回兜太現代俳句新人賞受賞の副賞として刊行された句集であるという。ともあれ、以下に、いくつかの句を挙げておきたい。
春深むいまも魔王の眠る壺
以下略が木下闇より漏れ始む
原爆忌夫人が祖父を訪ね来し
剝き出しのsuicaをかざし悴める
解像度不足の裸婦と二日月
ギブアップする選択や青き踏む
暗転に水鳥だけが残される
部屋でなく服でなく吾の黴びてをり
飾り罫やや太くする冬支度
夕焚火返事を待たず投げ入れる
北山順(きたやま・じゅん) 1971年、広島県生まれ。
撮影・芽夢野うのき「だんすダンス足踏んでまた秋空」↑
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