2018年7月28日土曜日

辻村麻乃「放射線状屋根全面に夏の雨」(『るん』)・・



 辻村麻乃第二句集『るん』(俳句アトラス)、序は筑紫磐井、跋文は岩淵喜代子。その序(~感想文)には、

(前略)以前考えた、あの子のいた国は、国境で隔てられた国ではなかったのではないか。もっとこころの国だ。僕の叔父さんは、俳句の国の王様だと言って威張っていたが、日本に住んでいると俳句の国の人間となってしまうのだ。だからあの子は、詩の句にから俳句の句にへやってきてとまどっているのだろう。
 
 筑紫磐井にしては珍しく寓意のような序である。結社「篠(すず)」は「しの」か「詩野」か、

 (前略)俳句の国に住んでいる僕たちが自由な詩の国からやってきたあの子の言葉を見、あの子と話をしてとまどっているだけなのだ。
 さあ、明日はどんな感想を言えばいいのだろう。教科書には何も書いていない、教科書なんてないのだから。

一転、岩淵喜代子の跋は、辻村麻乃「口開けし金魚の中の赤き闇」の句を挙げて、

 伝統俳句に見えている俳句の軸足は、第二句集でもそのままの位置に置かれている。そのことが、より作品を重厚にしてきた。

と記し、結びに、父である岡田隆彦の「美しいManoよーわが娘・麻乃へ」の詩で締めくくられている。
 
(前略)”わたしのいとしいマノよ、信じておくれ”
    実りある魂は、時と藁で熟す。
    わたしの美しい手は五つの未来を持つのだ。
     「一九八五年思潮社刊、高見順賞受賞作品『時に岸なし』」より
    おお麻乃と言ふ父探す冬の駅
    句集『るん』から引き出したこの一句は、そのまま岡田隆彦の詩に反歌として添えられる美しい句である。 

 そして、本句集には母(岡田史乃)、父、夫といういわゆる家族を詠んだ句も多い。少し例を挙げると、

    母留守の納戸に雛の眠りをり    麻乃
    雛のなき母の机にあられ菓子
    振り向きて母の面影春日傘
    母からの小言嬉しや松の芯
    母入院「メロン」と書きしメモ一つ
    病床の母の断ち切る桃ゼリー
    夏シャツや背中に父の憑いてくる
    神無月父だけのゐる神道山
    言ひ返す夫の居なくて万愚節
    階上の夫の寝息や髪洗ふ
    夫の持つ脈の期限や帰り花   
 
 因みに、集名に因む句は、

   鳩吹きて柞の森にるんの吹く

 「るん」の由来については、著者「あとがき」にあるが、「ルン」(rlung、風)らしい。
 ともあれ、いくつかの句を以下に挙げておこう。

    燕の巣そろそろ自由にさせようか
    膨らみし辞書に旧姓夜学校
    海のなき月の裏側見てしまふ
    ちちちゆちゆと声降らしをりかじけ鳥
    冬霧の三ツ鳥居より蜃に会ふ
   
辻村麻乃(つじむら・まの)、1964年、東京都生まれ。




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