2018年7月1日日曜日
松林尚志「汗冷める老人に席譲られて」(「木魂」第254号)・・
「こだま(木魂)」(第254号・平成30年5月号)の編集後記「あとがき」に、松林尚志は、以下のように記している。
兜太さんの逝去で欠けていた朝日俳壇の選者に七月から高山れおな氏がつくとことなった。朝日の英断に拍手を送りたい。俳壇は高齢化もあり、高度に趣味化した世界に安住してしまっいる。兜太さんに代わってここに風穴を開けるのは若い世代の登場を待つほかない。高山れおな氏は『荒東雜詩」とか、『俳諧曾我』で、俳句を自在な文学空間に解き放って刺激的であった。『芸術新潮』の編集にも関わっていたようで、その芸術的センスも得がたい。(中略)
まだ四十九歳の若さである。若い投稿者を急速に増やしていくに違いない。俳人れおながどのように成長するのかも見ものである。
松林尚志は1930年生まれ、たしか88歳になられるはすであるが、先日の金子兜太を送る会では、元気な姿を拝見し、ご挨拶をした。恵送いただく毎月の「こだま」においても批評眼は健在である。「詩誌『方舟』のことなど」の貴重な証言は、連載3回目を迎えている。
その高山れおなだが、先週6月24日付け朝日新聞朝刊・分化文芸欄で記者・樋口大二の署名入りインタビュー記事「同時代の句 共同体の記憶に/朝日俳壇の新選者 高山れおなさん」が掲載されている(以下の写真)。兜太追悼句は、
さほひめ と つれだつ まかみ ふりむかず 高山れおな
「佐保姫は春をつかさどる女神。まかみは狼(おおかみ)で、狼は金子氏の句の貴重なモチーフだ」と記され、その最後の部分に、高山れおなの抱負が述べられいる。
朝日俳壇の現選者3氏より1回り以上若く、作風も異なるから「おのずと選ぶ句も違ってくるのでは」という。選句の方針は「オープンでありたい。この枠の中になければ句を採らないということはない。好きなのは驚きと真実性がある句」と話す。真実性といっても、文字通りの事実を写しとることとは限らない。「文学的真実性とでもいうか、幅をもったものですが」
4冊目の句集と初の俳論集を、1年以内に出版すべく準備中だ。
とあった。その初選句の仕事も終わったようで、いよいよ、記事中にもあったが、7月8日(日)付け朝日新聞には、その選ばれた句たちが、お目みえするだろう。とはいえ、投句者によって、支えられるわけだから、少し長い目で見て、優れた作品を投句者自身が投じ、それらと真剣勝負で選句する選者も成長する場として、注目していきたい。その期待は松林尚志が述べているいるように大きい。
ともあれ、本号の「こだま」より一人一句を以下に挙げておきたい。
遠ざかる一点追へり夕焼空 松林尚志
朝の採血細き血管まじめに逃げ 勝原士郎
遠きアヤメは揺れず風のなか 小島俊明
浅草伝法院にて
路地ふたつ向うを通る神輿かな 石井廣志
ころころと青梅に塩父母遠し 阿部晶子
遠からずゲノム編集桐の花 山田ひかる
遠吠えめくネット匿名サングラス 奥村尚美
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