鶴岡行馬第一句集『酒ほがひ』(邑書林)、序は小川軽舟、跋は奥坂まや、巻初は藤田湘子の「鷹」掲載の鑑賞5句。その湘子五句のなかに、
夕星の發せし秋の聲なりけり 平成六年十一月号
秋声は秋の物音の謂いである。秋は清澄だからこうした季語が生きているのだろうが、私は物音そのものよりも、ものの発する秋の気配の感じ方を大切にしたい季語だとおもう。そうでないと、澄んだ初秋の透明感が伝わってこないのではなかだろうか。
「夕星の發せし」はまさにそうした感覚。それを高揚したリズムに載せて一気に仕立てた。(中略)
それだからこの作者のように、若いうちにこうした声調によって立つ句を持ったことは、後々(のちのち)大きな自信となるはず。リズムの醍醐味を知り、その快感が体内に余韻の尾を曳いているかぎり、月並み風の駄作をつくることはまず無いであろう。
と太鼓判を押している。小川軽舟の序によると、鶴岡行馬は「赫奕と鴨發たす日の昇りけり」(平成八年五月号)の湘子に激賞された句も「赫奕と雁發たす日の昇りけり」と「鴨」を「雁」に、実景でなかったとして改作しようとしたという。そして、
そこに俳句作者としての鶴岡さんの真骨頂があると言ってもよかろう。
と述べている。また、跋の奥坂まやは、
『酒ほがひ』三一四句に、とかく目より感覚に頼りがちになる比喩を用いた作品は一句もない。そのこともまた、行馬さんのまっすぐな気持をよく表している。
とも記している。ともあれ、本集よりいくつかの句を挙げておきたい。
寝るのみの家と思へり西東忌 行馬
あぜみちはたんぽぽみちよこんにちは
なゐの底まつくら春の星にぎやか
葛の花水よりも雲迅きかな
荒草に初霜の榮憂國忌
花冷や晝を燈して酒肆櫛比
日時計に夜の刻みなき暑さかな
しぐるるや露伴全集補遺二巻
星が聴く柱時計や狩の宿
にんげんは海に敗れて踊るなり
鶴岡行馬(つるおか・こうま) 1956年宮城県生まれ。
ラーゲリのジオラマ↑
下は千人針↑
昨日は、都内に出たついでに香月泰男展「シベリアの記憶 家族への情愛」(平和祈念展示資料館・新宿住友ビル33階~10月28日・入館無料)を観た。
戦後強制抑留の史実や証言をもとにした漫画(非売品)2冊をいただいてきた。
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