佐藤清美句集『宙の音』(六花書林)、
『宙の音』は『空の海』『月磨きの少年』に続く第三句集です。およそ私の四〇代、二九〇句を収めています。収録は概ね初出一覧の通りですが、大幅に作品を削除し、各章の中で再編集を行っています。
と著者「あとがき」に言う。ただ、いずれの句集名も空に関係している。「空」「月」「宙(そら)」である。巻頭の句は、
窓越しの桜 図書室は船
以前、図書館に勤務していると聞いたことがあるように思う。通勤時の光景もある。
恋猫の死を賭すことも通勤路
通勤路夏は今日までというラジオ
通勤路宿場まんじゅう蒸気上がり
通勤路頭上雷道おそれながら
また、昨日今日という日々の時間を詠んだ句もけっこうある。
桜前線身を越してゆく昨日今日
ひとまずは氷菓買い置く昨日今日
雨降って春の陣地となる明日
今日の日の風を浴びれば蝶生まれ
今日の日の鹿肉カレーいただきます
今日の日を無造作に咲けハルジオン
思えば、佐藤清美が愚生の関わった「俳句空間」(弘栄堂書店版)の新鋭俳句欄に投句してきたのは、およそ三十年以前のことになる。本集の版元・六花書林の宇田川寛之もそうだった。これも縁と思えば、いささかの感慨がある。一句献上!
さも藤(ふじ)の清(すが)し美(うつく)し宙(そら)の音(ね)よ 恒行
ともあれ、本集より愚生好みの句をいくつか以下に挙げておこう。
空に穴 原爆落下中心地 清美
夏の野に停車しており星の貨車
ストーブに棲む妖精の小言かな
すれ違う人の上にも秋の空
浮くための練習強く蹴ってゆく
美しい朝だと五月のラジオから
私の声が繋がる線はどれですか
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