2018年10月17日水曜日

佐藤清美「秋天を龍の鱗の零れつつ」(『宙の音』)・・



 佐藤清美句集『宙の音』(六花書林)、

 『宙の音』は『空の海』『月磨きの少年』に続く第三句集です。およそ私の四〇代、二九〇句を収めています。収録は概ね初出一覧の通りですが、大幅に作品を削除し、各章の中で再編集を行っています。

 と著者「あとがき」に言う。ただ、いずれの句集名も空に関係している。「空」「月」「宙(そら)」である。巻頭の句は、
  
   窓越しの桜 図書室は船

 以前、図書館に勤務していると聞いたことがあるように思う。通勤時の光景もある。

   恋猫の死を賭すことも通勤路
   通勤路夏は今日までというラジオ
   通勤路宿場まんじゅう蒸気上がり
   通勤路頭上雷道おそれながら

 また、昨日今日という日々の時間を詠んだ句もけっこうある。

  桜前線身を越してゆく昨日今日
  ひとまずは氷菓買い置く昨日今日
  雨降って春の陣地となる明日
  今日の日の風を浴びれば蝶生まれ
  今日の日の鹿肉カレーいただきます
  今日の日を無造作に咲けハルジオン
  
 思えば、佐藤清美が愚生の関わった「俳句空間」(弘栄堂書店版)の新鋭俳句欄に投句してきたのは、およそ三十年以前のことになる。本集の版元・六花書林の宇田川寛之もそうだった。これも縁と思えば、いささかの感慨がある。一句献上!

   さも藤(ふじ)の清(すが)し美(うつく)し宙(そら)の音(ね)よ  恒行

 ともあれ、本集より愚生好みの句をいくつか以下に挙げておこう。

  空に穴 原爆落下中心地      清美
  夏の野に停車しており星の貨車
  ストーブに棲む妖精の小言かな
  すれ違う人の上にも秋の空
  浮くための練習強く蹴ってゆく
  美しい朝だと五月のラジオから
  私の声が繋がる線はどれですか




0 件のコメント:

コメントを投稿