2018年4月10日火曜日

前野砥水(とど)「砥ぎ水の錆びの匂ひや冬仕度」(『怪しい雑貨店』)・・

 

 前野砥水『怪しい雑貨店』(ブイツーソリューション)、集名は、次の句に因んでいよう。

   啓蟄の怪しい穴の雑貨店     砥水

 表紙下には「二日酔いのトド 俳句日記」の文字がローマ字表記で記されている。会社を定年退職してから始めたという俳句生活。旅先の居酒屋で呑み、吟行をし、野山を歩き、いまだに口すぎのためにいかばかりかは働かざるを得ないキリギリスだった愚生からすれば、俳句三昧の羨ましいかぎりの生活ぶりである。「あとがき」には、旅に死んだ芭蕉を引き合いに出しながら、

  この様なことから考えれば、句集を出すなどと云う行為は大いに矛盾があります。また十年早いと思われもするでしょうが人生は長いようで短い。故に未熟者にして我儘な構想の句誌の上に、掲載する俳句は敢て見苦しき初学の作品も含めました。一句の背景や日常の雑文を添えながら構えない日記として、俳句は説明すべからずと非難を受けながら、自分史&俳句誌として五月一日の誕生を期して発行することに致しました。

 とある。したがって、自句自解めいたエッセイもまじえ、初学よりというように、編年順、に並べられた句は、後半、当然ながら終わりに近づくにしたがって句姿もよくなっている。著者は愚生とは一つ違いだが、団塊世代の最後の年に生まれている。積極的で悔いない人生をまっとうしようという意気込みというべきか。ブロブ「二日酔いのトド」という日々の彼是もしたためられているようだ。
 ともあれ、集中より、いくつかの句を挙げておこう。

   海鞘といふ遠き祖先を喰ひにけり    
   梅雨入りて本屋の椅子の白日夢
   霜葉(そうよう)の小径を辿るものの痕
   轟轟と人焚く煙り梅雨の月
   死神と看護士がゐる花野かな
   芒野や人の通はぬ風の道
   手遊びの童子のうたふ街薄暑
   百年の噴井にやどる空のいろ
   榾灯り影の重なる屋形船

前野砥水(まえの・とど)、1949年名古屋生まれ。



 

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