2018年4月3日火曜日
木村かつみ「夢見月馬蹄に碧き雪積る」(『猫の椅子』)・・
口絵・糸大八「楽園」↑
木村かつみ句集『猫の椅子』(ふらんす堂)、ブログタイトルにした「夢見月」の句は、磯貝碧蹄館を偲んだもの。句集の序は長嶺千晶、跋は朝吹英和。その序には、
僕の愛冬にヒマワリ咲かせましょ
この「僕の愛」の句を碧蹄館先生は、「この男言葉が宝塚的でいい。昔の僕の下宿には『かつみ』という娘がいたんだよ」と評して下さったという。「冬にヒマワリを咲かせる」とは、まるで、碧蹄館先生ご自身のことではないかと私には思われた。
とあり、また、跋の結びには、
一行の詩ありて死なず枯野人
「命・愛・希望・未来を詠んでゆきたい」を俳句のモットーとして五官を研ぎ澄ませて集中する作者の心には常に存在に対する慈しみの愛が満ち溢れている。
まことにかつみさんは言葉の背景に深い沈黙を持つ俳人である。
「愛のなかには言葉よりも多くの沈黙がある」(ピカート)
とある。 とはいえ愚生には、なんと言っても口絵に糸大八「楽園」の絵があり、集中に、
画家・俳人の長岡裕一郎氏を偲び
藤棚の猫は絵描きの死をみつめ
の句があったことが嬉しい。二人のことを身近に思ってくれる人が今もいる、ということだけでも感銘ふかいのだ。当然のように糸大八を偲ぶ句もある。
糸大八を偲び
オリーブの花の楽土に鳩放つ
その糸大八にふれて著者「あとがき」に、
糸大八氏には「作者が抱く永遠の郷愁感と思われる情調によって俳句が支えられているが、明確な映像化を果たしているものと、そうでないものとがあるが、漂う豊かな内心の律動感を大切に頑張って下さい」と、貴重なアドバイスを頂きました。今でも感謝しております。
とも記されている。ともあれ、集中よりいくつかの句を挙げておこう。
忘我とは違ふ微睡花杏
慈悲心鳥枕に父の涙あと
まなうらに開く銀河や風の道
凶器なき狂気降り来て春の闇
春の雷アダムの腰に死角あり
花影や切り絵の中に月の音
籐椅子は猫とわたしを置くところ
もう猫の居ない揺り椅子北塞ぐ
木村かつみ(きむら・かつみ)、1950年、東京都生まれ。
撮影・葛城綾呂 カラスノエンドウ↑
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