2018年4月19日木曜日

川嶋健佑「金魚放つ水槽広すぎて悲し」(『Hello world』)・・・



川嶋健佑句集『Hello world』(私家版)、著者「あとがき」には、

 ハローワールドでは、大学時代から会社を辞めるまでの約5年間の俳句をまとめた。大学時代、私は自分の文体を作り上げたいと言っていた。いま振り返ってみて自分の文体を得ることができたのだろうか。(中略)
 とても悲しく荒野をただひとり歩いてゆくような作業だったと言いたいが、この表現は陳腐かも知れない。いまから表現の旅に出たい。

とあった。思えば愚生は二十代の初めころ、一句を書いたらこれを最後に俳句を止めようととばかり考えていた。実際に愚生は書きたくなるまで句作を中断した時期がある。ともかく川嶋健佑は「新たな表現の旅に出たい」という。つまり、これまでのものは捨て去って、新たな挑戦ということだろう。その覚悟を祝福したい。まさに誰にも紛れることのない自身の文体のために・・・。いくつかの句を以下に挙げておこう。

  テヘという案山子アハンという案山子   健佑
  メタファーでないハチミツをなめている
  桜散る造幣局に君と僕
  月面は風船ガムで行く夜長
  向日葵へララ行けばキキ追いかける

  また、同時に恵まれた誌は「つくえの部屋」第2号。川嶋健佑の個人誌だという。俳句甲子園のことや鬼貫青春俳句大賞のことなどが記事としてある。藤田亜未「俳句甲子園秘話」に、

 「我々バンビ句会は次世代を担う俳句マンシップにのっとり心から俳句を楽しめるものよって結成される。(略)従来のいかなる俳句理念にも束縛されず、自由に句作に取り組みそれを鑑賞し、21世紀の俳句革新の礎となるべく精進することを旨とする」

とあった。心意気をよしとしよう。さらに、鬼貫青春俳句大賞にふれて、うにがわえりも「テニス選手によるバドミントン」では、

  (前略)とにかくわたしは俳句によくある文語調の表現や、切れの概念、難しい季語になじむことができなかった。今は平成の世の中なのだ、口語で書けやと思う。「や」、「かな」なんて、字数の無駄じゃないかと思う。そして「われから」って何やねん。「相撲」に至っては、テレビで年中やっているのに季語としては秋になるのだという。「歳時記」つくった奴、出てこいや!と高田延彦のようなトーンでクレームをつけたくなる。(中略)鬼貫青春俳句大賞選考委員である坪内稔典氏は、そんなわたしの同賞受賞作を「楽観的で歯切れのよい口調が心地よい」と評した。つまるところ「おバカ」と紙一重なのだろうが、この坪内氏の評は私の作歌態度とも通じるところがあるように感じ、たいへんうれしく思った。

と記している。ともあれ、「つくえの部屋」第2号に掲載されている記事中の句からいくつかを以下に挙げておこう。

   冬晴やアンテナ曲がり立つ襤褸屋    張沢碩
   鳥居から吹く風を見る春の鹿       寒天
   天高し直感が好きプリン好き     塩見惠介
   将来を嘆く 流氷だからなに?    川嶋健佑
   巨神団等 糞と哭びしが今吹雪くなり 八鍬爽風
   春風みたいにしますねと美容師笑ふ  工藤玲音
   花ひとひらふたひら君を忘れない   黛まどか
   水温むイソジンのもわもわもわもわ うにがわえりも   



           撮影・葛城綾呂 ボタン↑

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