2018年4月5日木曜日

鈴木比佐雄「かつて山櫻の咲く里で/白花タンポポを見たことがある」(『東アジアの疼き』より)・・



 鈴木比佐雄第8詩集『東アジアの疼き』(コールサック社)、著者「あとがき」に、

 (前略)タイトルを「東アジアの疼き」としたのは、東アジアの人びとと接した時の私の思いが、彼らの「疼き」を自らの「疼き」を通して感受することだったからだ。現在でも東アジアの国境は時に政治的・軍事的な発言によって高くなるが、私は幸運なことに詩を通してその国境を楽々越えてきたように思われる。(中略)
 中国・韓国・日本の東アジアの国々の人びとが友情を感じて親しく青島ビールなどを飲みながら文化や歴史や「生活世界」を語り合うことが、本来的な豊かな時間だろう。そんな未来の時間が訪れることを願っている。

 とある。俳句と違って散文詩は長いので、とうてい愚生のブログなどでは紹介しきれないのだが、以下に一編のみを挙げておこう。なおブログタイトルにした冒頭二行の部分の題は「キルケゴールの白花タンポポー桃谷容子さんへ」である。

     生ける場所ー高炯烈(コ・ヒョンヨル)さんへ

その人は初めて原爆ドームの前に立った
『長詩 リトルボーイ』七九〇〇行を書いた
その人は何をみているのだろうか
長詩の最終連は「草の葉」という八行詩で終わっている

  遠くの海に草の葉一枚が流れている。
  あの草の葉の上に私たちを皆載せることができるか。

その人はきっと原爆ドームと
亡くなった人々すべてを
「草の葉」の上に載せることを夢見たのだ
いまカエデ、クスノキの巨木が
ドームのかたわらに生い茂り
その緑葉を通して何を見ているか
十数万人の命が一枚一枚の葉に宿っているか
原爆ドームの時間は
一九四五年八月六日で停止しているが
緑の時間は永遠に生き続ける
破壊されたドームに命を注ぐことが可能か
眩しすぎるものを見るために
その人はまた影と語り合っている気がする
相生橋をわたり対岸に咲く夾竹桃の横で
その人は水に映る原爆ドームを眺めている
世界は瓦礫の前でまた眠り始めているか
無数の叫び声が水面から顔を出している
その人はその声を聴こうとしている
その人は相生橋を走る市電を
眩しそうに眺めている

 鈴木比佐雄(すずき・ひさお)、1954年、東京都南千住生まれ。享年71。

ケイリンシロタンポポ↑


撮影・葛城綾呂 シロバナタンポポ↑
  
★閑話休題・・・

 首くくり栲象(たくぞう)が亡くなった。愚生が最初に彼に会った時は古沢栲(たく)、タクさんだった。俳人デビュー前の仁平勝に初めて会ったのも、タクさんの自宅でのことだ。もう45年ほど以前のことであろうか。「豈」の表紙絵をいただいている風倉匠はタクさんの親友で、パフォーマンスの先輩だった。両名とも様々の伝説に彩られていた。風倉匠は「世界で一番無名で、一番有名な男」と言われた。数日まえ、二か月休演が続いた庭劇場が気にかかって、携帯電話をしたが誰も出なかった。不安がよぎった愚生は、書肆山田の一民に電話をした。死去はフェイクニュースかも・・・と言っていたが(何しろ4月1日エイプリルフールだったし)、その彼から、また聞きなれど、3月31日にタクが死んだ、ガンだったらしい・・・と先ほど電話があった。
 タクさんからの愚生宛、3月12日の最後の一斉メールには、

それは世界のおのおのの民族で、あまたのダンスがあるなか。それは日本の舞踏者であり、ありつづける人が、その生前、われわれに語りつたえた。

 舞踏とはほんとうの人間の生活を探すための一手段なのです  

その呟きは、ときの時代で死語のように、水のようで、地中へ深く潜り。ときに日本の四季の郷で、静かに地面を濡らす小雨と交わって、湧き水ともなって、あたりのなかに、きらきらと光っている。 

       休演
     
     首くくり栲象  


 とあった。ひたすら冥福を祈る。合掌。
 首くくり栲象(くびくくり・たくぞう)、1947年1月1日、群馬県安中市生まれ。享年70。

★追記・・・・・神戸映画資料館で開催予定(来る5月19日~20日)

首くくり栲象   くびくくり たくぞう

1947年、群馬県安中榛名生まれ。高校卒業後、演劇を志し上京するも、東京で出会った芸術家たち、とりわけハプナー・風倉匠に感化され、演技、ダンス、舞踏、そのどれにもカテゴライズされえない先鋭的な身体表現に突き進む。1971年には、天井桟敷館にて首吊りパフォーマンスを用いた初めての作品『a’』を発表。その後も、笹原茂朱主宰による劇団夜行館への参加、舞踏の祖・土方巽の死直後に行われた公演『感情の周囲をめぐる物として』(1986)においては自らの胸に焼鏝を押し当てるなど、比類なきラディカルな身体表現の軌跡を描きつづけてきた。1997年より、首吊り行為を自らに課す日々を生き始める。彼の行為によって踏まれつづけた自宅の裏庭は、やがて粘土のような質感を帯び、その歩行の痕跡は緩やかな起伏となってあらわれていく。2004年には、自宅の庭を「庭劇場」と命名、自らを「首くくり栲象」と称して、2018年3月の死の直前まで公演し続けた。

トーク 5月19日(土)・20日(日)15:50~16:20 参加無料(当日の映画鑑賞者対象)
余越保子(振付家、『Hangman Takuzo』監督)+堀江実(映画作家、『首くくり栲象の庭』監督)
ゲスト:19日 崟利子(映像作家) 20日 大谷燠(NPO法人DANCE BOX代表・Executive Director)
《料金》入れ替え制
一般:1200円 学生:1000円 会員:900円
《割引》当日2本目は200円引き
*予約受付中
info@kobe-eiga.net まで、鑑賞希望日時、お名前、ご連絡先(メールアドレスまたはお電話番号)をお知らせください。
協力:NPO法人DANCE BOX




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