2019年4月15日月曜日
渕上信子「薔薇薔薇苑をはみだして咲く」(『現代俳句精鋭選集 18」)・・
『現代俳句精鋭選集 18』(東京四季出版)、20名の俳人の作品102句と小論が付されている。ここでは、「豈」同人でもある渕上信子を最右翼に取り上げたいと思う。愚生は、ここに収載された略歴と論以外にまったく渕上信子について知るところはなのいのだが、句会で論議する姿や、彼女の句に取り組む姿勢の真摯さには並々ならぬものがあるように思う。「豈」の同人になられたのは、まず、ブログ上の「俳句新空間」に投句されて後でのことである。聞くところによれば復本一郎(鬼ヶ城)に師事し、昨年の「鬼」終刊まで句の研鑽を積まれたようである。作品蘭の末尾にある小論「『鬼』の実験ー短俳句」-」によると、
(前略)その「鬼」が最後に取り組んだ「実験」が「十四音短俳句」です。これは、「子規による俳句革新」への更なる挑戦として、復本一郎(俳号。鬼ヶ城)代表により二〇一六年提唱されました。(中略)連句の短句に季語と「切れ」を入れて平句を「発句化」することにより、世界最短の定形詩を目指しています。(中略)
短俳句についての私自身のルールは、①正確に十四音であること。②季語を含むこと、の二点です。発句の条件である「切れ」については、当面は緩やかでもよいことにしております。(中略)
「鬼」の句会で、これまでに提出された短俳句は一千句を超えます。ここに少しだけご紹介します。
野心なき日は冬薔薇買ふ 復本鬼ヶ城
夏の山河の句を横書きに 朝倉水木
銀河の端のホテル帆の形 木村珠江
星月夜このわれが場違ひ 黒川安房
腕に輪ゴムの跡草の市 角南範子
おい屋上に冬が来てるぞ 平千枝子
菊百鉢を育て偏屈 藤田夕亭
カミングアウト薔薇盗りました 三浦 郁
と記されている。愚生の記憶ではレンキスト・浅沼璞が、かつて短句を独立させた七・七の句作りをし、その作を発表していたことがある。従って、これまでも、七・七の短句のみの作を書いてきた人はいるとはおもうが、それを新たな定形創造の運動として展開したのは、あるいは俳句型式史上初めてのことかもしれない。
ともあれ、渕上信子の俳句と短俳句を以下にいくつか挙げておこう。
なまはげの去りたる闇に泣きやまず 信子
うぐひすや青空文庫春琴抄
ひるがへる国旗と県旗こひのぼり
涼しさや般若心経「無」の字多し
神留守となりて久しき地球かな
まだ冬と思つてゐない冬の蝶
苺に毒に母おはします
ひぐれいつからずつとひぐらし
死ねと書かれし壁しぐれ
あの雪女声が野太い
断捨離少しして後の雛
渕上信子(ふちがみ・のぶこ)、1940年、大連市(旧満州)生まれ。
このアンソロジーには、いかにも精鋭という俳人が入集されている。よって以下に、収録俳人の中からいくつか一人一句もあげておきたい。
生れんと決めし高さや蟬の殻 進藤剛士
ウロボロス円環となり去年今年 杉 美春
飼ひきれぬ金魚放ちて夜の沼 砂 女
だきしめたしまはまるごとみなみかぜ 豊里友行
死者も僕等も血潮のリレー甘蔗(きび)穂波 〃
深海へ死して鯨の沈みゆく 野崎海芋
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