2019年4月4日木曜日

押見淑子「恐竜の化石に満ちる春の波」(「山河」357号より)・・



 「山河」357号(山河俳句会)の第50回の課題詠「競作・チャレンジ俳句」の今号の課題は「恐竜+春季」である。愚生は、昨年から、本欄の選句・評をさせてもらっているのだが、一年に一度は、「題+無季」になることもあって、これは普通の句作りとはあきらに違うもので、俳句作者が無意識裡に有季定型の概念に束縛されていることなど、作者も選ぶ方も、いくつかのハードルを超えなければならない。同じ五・七・五の型でも川柳とは、別の屹立性を争わなければならないからだ。ともあれ、今号の課題詠についての天・地・人・秀・佳に選んだ句のみになるが紹介しておこう。 
     
 恐竜展といえば、子どもの夏休みの定番だが、ものの本によると、近年、羽毛がある恐竜の化石の発見などで、鳥類として進化し生き残っているというのが定説になりつつあるらしい。恐竜だからと言って大型のものばかりではない。鳩ほどの大きさのものもいたようだ。僕の子どもの頃は爬虫類からの進化であったような気もするが・・・。

天 恐竜の化石に満ちる春の波       押見 淑子             
地 だっこされ恐竜にぎり入園す      小林 和子
人 恐竜の化石を掘れば春の虹       友塚紀美恵    

秀 つちふるや恐竜パズル完成す      山田ひかる  
  恐竜の取説春の闇動く         山本 敏倖
  恐竜の銀の目蓋や朧月         井手ひとみ
  啓蟄や恐竜のいる博物館        久保浩一郎
  羽のある恐竜切手鳥交る        一井 魁仙
  花衣恐竜ポシェットスニーカー     近藤 喜陽
  恐竜の卵買ったら春が来た       峯田 國江
  恐竜の増殖春のおもちゃ箱       赤坂 陽子
  恐竜のパワー全開冴え返る       宮川 欣子
  春休み小学二年の恐竜展        大月 桃流

佳 恐竜の足跡から芽吹くもの        森 さち
  恐竜の卵の黄味と春の月        栗原むつ子
  合格通知恐竜館に居て届く       山県 總子
  恐竜の眠る大地や凍て戻る       榎並 恵那
  恐竜の雄叫びなんて素敵な春だ     土屋 秀夫

 その他、今号の「山河」には平成30年度山河賞の発表があり、吉田慶子が「水の旅」で受賞している。その中から一句を挙げておこう。

  挙げた手はそのままそのまま水仙花    吉田慶子



★閑話休題・・阿部完市「栃木にいろいろ雨のたましいもいたり」(「海原」第7号より)・・


「シリーズ 海程の作家たち」(第2回)は「気合いー阿部完市の俳句」は、先般亡くなった谷佳紀「しろ」12号(2008年8月刊)からの転載である。そのアベカン俳句に対して、

 安部は地面から浮いて走っているとしか思えない。発想がまるで違う、言葉との付き合い方がまるで違う。

 と述べたあとに、その結びには、

   きのう鶏あした鶏故に鶏

 それ故にこの表現から私が読み取れるのは、鶏のイメージではなく、「きのう」「あした」「故に」という言葉に込められた阿部の感情であり、「鶏」はそのために必要とした表現上の手続きのように見えてくる。もちろんこれは誤読だが、誤読によって「鶏」が鶏のイメージとしてではなく、わけがわからないが阿部はこのように鶏が書きたかったのだという思いを直観し、鶏という言葉を思いつつ鶏を感じ、鶏への心の傾きが伝わってくるのである。

 阿部完市(あべ・かんいち)、1928・1・25~2009・2・19、東京市生まれ。

 と述べている。ともあれ、愚生の参加している遊句会の仲間二人が「海原」に投句しているので、その一人一句以下に挙げておきたい。

   コンセント抜いても死なぬ冬日和  たなべきよみ
   夫唱せず婦随もなくて冬日和      武藤 幹


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