2019年4月3日水曜日

鈴木石夫「散る桜 惜しみなくちるちるみちる」(『鈴木石夫句集集成「裏山に名前がなくて」』)・・



 『鈴木石夫句集集成「裏山に名前がなくて」』(現代俳句協会・「歯車」俳句会)、監修は前田弘。鈴木石夫が平成18年5月31日に亡くなってすでに13年が経った。享年80。既刊6句集に加えて未刊句抄、さらにいくつかのエッセイを収載している。前田弘は「刊行にあたり」で、

 (前略)先生は句集『史人』のあとがきに「俳句は面白くなければ・・とこの頃、しきりに思うようになっている。(略)それに、俳句は自由でなければ・・とも、しきりに思うのである」と記している。句集集成を通してあらためて「面白く」「自由」な石夫ワールドを再確認して下さい。

 と述べ、田口武の「あとがき」には、

(前略)この鈴木石夫句集集成『裏山に名前がなくて』を読んでいただいた方の中には、石夫先生を懐かしく思い出された方がいるかと思う。また、石夫先生を知らなかった方には、俳壇の歴史の中に、鈴木石夫という独特の文体を持った俳句作家がいたことを知っていただき、鈴木石夫の世界を存分に楽しんでいただけたと思う。

 と記している。本書の集名の由来は、未刊句集『裏山抄』(2001年以後の「歯車」掲載作品340句から青木啓泰、柿畑文生、前田弘が各50句選出。さらに前田が16句を追加、120句とした)のなかの、

  裏山に名前がなくて裏の山    石夫

 の句によっている。また、安西篤による「鈴木石夫の世界ー裏山抄を読んでー」(「歯車」312号)、大久保史彦「追悼の辞」(平成十八年六月九日)、兼光えい子「歯車の皆さまへ」(平成十八年七月九日)が再録されている。愚生は、本集によって第一句集『東京時雨』、第二句集『蛙』の瀧春一序文と富田直治の跋文に、教えられるところが多かった。愚生が石夫の句集を最初に手にしたのは『史人』であり、最後の句集となった『風峠』である。その間、俳誌「歯車」については、かつて「未定」で一緒だった「歯車」同人の佐藤弘明の好意によって、30年ほど以前から恵送を受けているので、その作と、「歯車」に所属していた若い有望な俳人たちの作に、知らないうちに接してきたことになる。
 愚生が現代俳句協会に入会した頃(選挙での得票数だった。約30数年前)、そしてその後、青年部創設時の委員をしていた頃、なにくれとなく気にしていただいたように思う。前の協会事務所のエレベーター前で、お会いし、挨拶をしたのが最初の出会いだっだと思うが、そのとき、愚生に「怖い人だと思っていましたが、そうではないんですね・・」と柔らかく仰ったのが印象に残っている。
 このたび、本集成によって、鈴木石夫の大方を知ることができ、かつ、戦後俳句がこうした先人によって推進されてきたことを、改めておもうことができる。刊行に尽力された「歯車」の方々に敬意を表したい。
 ともあれ、集中よりいくつかの句を以下に挙げておこう。

   板ガラス負ひ野分を胸で押してゆけり    
     -信州の母はじめて状況ー
   東京時雨おろおろ歩く母をかばひ
   桃花村たましひ軽く駈けぬける
   赤ん坊は純粋に泣き 蛙に勝つ
   巳年の雪 ああ 小椋佳・林桂
   月光に濡れ不可解な水を撒く
   辺境にて異形の凧を操っている
   立ち射ちに無理があり ただ雪が降る
     放蕩子急死
   絢爛たる箱の中すつと居なくなる
   凍鶴に発端のない川が沿う
   父のりんご咲きだして父居なくなる
   鴨三千 げにいろいろなことをする
   麦秋の せつせつせえと遊びだす
   ぽこぺんと言ってあそんで戦死せり
   雪が降る猫は狸寝入りに入る
   鴨凍り鴉に目玉攻められる
   信濃路は田に水が入り山桜
   生も死もえつさえつさと走馬灯
   重信忌夕かなかなを浴びにゆく
   竹皮を脱ぐこれからが正念場
   隣家まで来た死神に挨拶する
   先天的能天気(むかうみず) 号泣をして卒業す
   春の闇軍歌が匍匐してくる
   母逝くと虫は知らせてくれざりき
   さくら果て じいんじいんと襤褸のうた
   ねずみ花火 怖がるものに追ひすがり  


           撮影・葛城綾呂 レンギョウ↑

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