2019年4月27日土曜日

志垣澄幸「着弾のたびに崩るる防空壕(がう)の壁そのたびごとに死を思ひゐき」(「合歓」第84号より)・・



 「合歓」第84号(合歓の会)、同誌では、久々湊盈子による毎号のインタビュー記事が、いつも見逃せない。今号は志垣澄幸。その中に、

ー第九歌集『青の世紀』のなかに、
・戦争は反対なれど敗戦の記録フィルムをみつつ悔しき
という一首があって、胸を衝かれましたが、(中略)
志垣 予科練に憧れ、海軍士官少年航空隊とか、そういうものに憧れて自分もそういう幹部候補生になりたいと思っていました。戦時の少年は完全にマインドコントロールされていたわけですよ。(中略)
志垣 私より少し年上の方たちは、戦地に赴き戦争の悲惨さを身をもって知っていますから、戦争は絶対反対ということになりますが、私達の世代は大きくなったら戦地でお国のために戦うのだと思っておりました。そんな軍国少年のまま終戦になったのです。

 インタビュー中に志垣澄幸の歌が引用されているので、以下に抄出する。

  いくたび幼くて死をおもひたる記憶甦りて山裾は雨    澄幸
  丘に立つ一本ゆゑにひもすがら蟬こもらせて樅の木は啼く
  国歌斉唱から一日はじまる学園にはや十年勤めてきたる
  誰も居ぬ風呂場の水に宇宙よりしのび入りたり光がおよぐ
  幾万の魚の命を奪ひたるわれは目刺にされむ彼の世に

 発行人の久々湊盈子が「九条歌人の会」の呼びかけ人というからだけではないだろうが、誌面には、本人のエッセイ「南島遭難始末記」という沖縄紀行があり、また中山眞理子のエッセイ「所載の一冊⑦『辺野古を詠う 第五集』」、特別寄稿には、加藤英彦「病んでいる日本へ」がある。前者の『辺野古を詠う 第五集』(紅短歌会 2018年)には、

 「紅短歌会(主宰玉城洋子氏)は沖縄県糸満市を拠点として一九八二年に創設された。〇二年から辺野古吟行をはじめ、十六年間で詠んだ歌一一一六首がこの歌集に収めれている。

 という。感銘深い歌も多く引用、紹介されているが、残念ながら作者名が記されていない。この書評の結びには、

 (前略)これまでも国政選挙、知事選などで民意は繰り返し示されているが、工事は強引に進められている。
 ・「辺野古しかない」といふ圧力 もう胡麻化されたくない海に向かへば
 ・島人(シマンチュ)が唄ふ青き辺野古の海 武器などいらぬ基地などいらぬ
 ・悲しみを決意にかえて今日も座す辺野古の海は青く澄みたり
 県民投票という形を取らざるを得なかった一因は本土の「無関心」であり、問われているのは私たちである。

 と痛切に記されている。 

 また、加藤英彦「病んでいる日本へ」は、「梅雨空に九条守れの女性デモ」の句が、さいたま市公民館の「公民館だより」に掲載拒否されたことについての、当局の対応に対する論評であり、

 政治的な中立性とは特定の主張を隠蔽することではない。真に中立を守るのであれば、どのような主張にも表現の場を解放して自由な論議に委ねればよいのだ。表現の自由を保障するということは本来そういうことだろう。異議を唱えるのであれば、対抗言論で応じればよい。それが言論の自由市場である。

 と述べている。ともあれ、同誌同号より、いくつかの歌を以下に挙げておきたい。

  前山をおほふ桜に生(あ)れ変はる句を遺し逝けりふるさとの兄    桑原正紀
  死の日まで何年あるか書初めは「晩年渾身」の四文字えらぶ     久々湊盈子
  抵抗といふ言葉に元気湧きしかな戦(いくさ)に負けて十四・五年は  八白水明
  六十六年人生最後のつぶやきは「まあ いいや」なんてそれはないだろ 阪本ゆかり
  実るものに一言あらむ是非もなく柿もぶだうも種なしにされ      六道地蔵
  空仰ぎどうしたもんかとつぶやけば何とかなるさと雲が流れる    野上千賀子
  深々とつきし吐息に一斉の視線を浴びて昼の電車に         藤島眞喜子
  燻し銀の六角堂は荘厳に六道輪廻の説法を聴く            弓田 博
  もう二度と訪ねることのない施設もう聞くこと叶わぬ「またね」   吉村たい子
  今日や明日とは思わざる故それぞれが所望の最期を語りて笑う    渋谷みづほ
  平成は昭和の後始末なりて無言館にきく声なき声を         小田亜起子
  「モルダウ」の旋律ふいに浮かび来るわが脳裏にも絶えぬ川あり    石原洋子
  青刈りの稲より作るしめ飾りささかみ村の稲の香ぞする        吉田久枝
  讃歌といふもあまりに哀し苦しかる二年に満たぬ横綱在位       楠井孝一
  メディアにて目学耳学肥えきたるわれは五輪の評論家になる     久保田和子
  珊瑚から生りし島ゆえ竹富の海をましろき砂がふちどる        恩田てる
  兵たりし馬上の叔父の写真(うつしゑ)を祖母の棺にそつと入れたり 柏木節子  
   



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