2022年10月27日木曜日

荻上憲治「露の世に絶えぬ戦や天の川」(甲信地区現代俳句協会「第35回紙上句会」)・・


 「甲信地区現代俳句協会・第35回紙上句会結果発表」(甲信地区現代俳句協会会報/2022・10.15)、ブログタイトルの句、荻上憲治「露の世に絶えぬ戦や天の川」は、愚生の特選にした句である。応募総数74名、148句。以下にその選評と、各選者の特選句を紹介しておこう。


   露の世に絶えぬ戦や天の川     荻上憲治(恒行・特選)

   蜘蛛の囲の月を捕へて光りだす  西村はる美(〃・入選)

   檸檬手に紡錘形のふと不安     酒井和子(〃・入選)


【選評】

 特選の上五「露の世に」には、一茶が、満一歳余りで亡くなった長女を詠んだ句と言われている「露の世は露の世ながらさりながら」を踏まえていると読んだ。加えて現在、世界中に絶えない戦争で命を失う悲哀への思いが及ぶだろう。しかも、天の川。無数の魂のように星が瞬いているではないか。無常は一入というべきだろう。

 入選句の「蜘蛛の囲」の光りのその源が月光であるというのも頷ける。また、もうひとつの句「檸檬手に」は、梶井基次郎の『檸檬』を思わせて、その不吉な塊りである紡錘形の爆弾、そこにふとした不安。この句では、それほど深刻ではない、ちょっとした不安感を適度に表現している。いずれにせよ、佳作に推した他の句についても、それほど大きな差があるわけではない。作者の表現意志がよく表されている作品ばかりだった。


  檸檬手に紡錘形のふと不安     酒井和子(秋尾敏・窪田英治選)
  木曽馬の母情は篤し独活の花   大野今朝子(神野紗希選)
  死は一瞬その後の長きこの夏は   柳澤和子(宮坂静生選)
  鳥になる夢から目覚め梅雨明ける  新村洋子(城取信平選)
  風呂敷にみんな包みて生身魂    長崎玲子(中澤康人選)
  満席と断られたり天の川      鈴木臣和(佐藤文子選)
  扇風機に当たり続けて老けにけり  酒井和子(堤 保徳選)
  緑蔭に休める山羊の悟り顔     上村敦子(中村和代選)
  戦争を憎し憎しとなめくじら    樋上照男(島田洋子選)
  夏炉端熊の毛皮をどさと置く    黒沢孝子(久根美和子選)
  瞬くは楸邨・兜太星今宵     西村はる美(古畑 和選)
  麦の秋ただ平安を願いたり     奈都薫子(青木澄江選)
  坊主頭小突きつ葱の種吐かす    上原富子(西村はる美選)  



      撮影・中西ひろ美「島唄のやうに生きてよ黍嵐」↑

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