「甲信地区現代俳句協会・第35回紙上句会結果発表」(甲信地区現代俳句協会会報/2022・10.15)、ブログタイトルの句、荻上憲治「露の世に絶えぬ戦や天の川」は、愚生の特選にした句である。応募総数74名、148句。以下にその選評と、各選者の特選句を紹介しておこう。
露の世に絶えぬ戦や天の川 荻上憲治(恒行・特選)
蜘蛛の囲の月を捕へて光りだす 西村はる美(〃・入選)
檸檬手に紡錘形のふと不安 酒井和子(〃・入選)
【選評】
特選句の上五「露の世に」には、一茶が、満一歳余りで亡くなった長女を詠んだ句と言われている「露の世は露の世ながらさりながら」を踏まえていると読んだ。加えて現在、世界中に絶えない戦争で命を失う悲哀への思いが及ぶだろう。しかも、天の川。無数の魂のように星が瞬いているではないか。無常は一入というべきだろう。
入選句の「蜘蛛の囲」の光りのその源が月光であるというのも頷ける。また、もうひとつの句「檸檬手に」は、梶井基次郎の『檸檬』を思わせて、その不吉な塊りである紡錘形の爆弾、そこにふとした不安。この句では、それほど深刻ではない、ちょっとした不安感を適度に表現している。いずれにせよ、佳作に推した他の句についても、それほど大きな差があるわけではない。作者の表現意志がよく表されている作品ばかりだった。 檸檬手に紡錘形のふと不安 酒井和子(秋尾敏・窪田英治選)
木曽馬の母情は篤し独活の花 大野今朝子(神野紗希選)
死は一瞬その後の長きこの夏は 柳澤和子(宮坂静生選)
鳥になる夢から目覚め梅雨明ける 新村洋子(城取信平選)
風呂敷にみんな包みて生身魂 長崎玲子(中澤康人選)
満席と断られたり天の川 鈴木臣和(佐藤文子選)
扇風機に当たり続けて老けにけり 酒井和子(堤 保徳選)
緑蔭に休める山羊の悟り顔 上村敦子(中村和代選)
戦争を憎し憎しとなめくじら 樋上照男(島田洋子選)
夏炉端熊の毛皮をどさと置く 黒沢孝子(久根美和子選)
瞬くは楸邨・兜太星今宵 西村はる美(古畑 和選)
麦の秋ただ平安を願いたり 奈都薫子(青木澄江選)
坊主頭小突きつ葱の種吐かす 上原富子(西村はる美選)
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