2022年10月26日水曜日

飛鳥もも「小鳥来てうつつのひとつ遠ざかる」(『壺中の蝶』)・・


  飛鳥もも第一句集『壺中の蝶』(俳句アトラス)、跋は坂口昌弘「この生を詩に咲かせたし」。その中に、


   夢ごごち出入り自由の壺の蝶

   壺中なる自由と孤独独楽廻す

   昔から君は壺中で遊ぶ蝶

 句集名の「壺中の蝶」については作者の解説がないので、想像するより他はない。

 『後漢書』の「壺中の天」と、『荘子』の「胡蝶の夢」の二つの話を合わせた世界と想像する。(中略)

 作者にとって、「壺中の蝶」は俳句の世界そのものを象徴する。現実の世界に満足していれば人は俳句を詠まないだろう。現実の生活や社会や政治や経済や戦争の世界に満足できないからこそ、十七音の狭い壺の中の世界に、作者の夢の世界の創作を試みる。現実の花はすぐに萎れて散ってしまうが詩歌の花は永遠に美しい。俳句の言葉は印刷して句集に残る限りは後世にまで残る。孤独であるが自由に独楽を廻せるのは俳句の壺の中だけである。


 とあった。また、著者「あとがき」には、

 

 (前略)私の青春時代の日記を紐解くと「目標や生き方をどこまで貫けたのか、いずれ自分史を書く」とありました。そこで人生の締め括りとして俳句を選んだのでした。

 すこしずつ作品が出来ると苦労も悲しみも喜びに変わることを知りました。

 沢山の苦労も出来るだけ愚痴にせず、子供には正しく明るく育って欲しいと願い、我慢の日々でした。今では俳句をやっている時の楽しさに自分自身が驚きです。


 ともあった。ともあれ、愚性好みに偏するが、集中より、いくつかの句を挙げておきたい。


  くるまつて光よ風よ春 春 春      もも

  春風をさそひ街までおろし髪

  ちちははのおもさますます桃の花

  押し入れがどこでもドアになる朧

  朧夜や地図になかりし黄泉の国

  匂ふ武器隠し持ちをり蟻の兵

  素数とは寂しくないか柘榴割く

  冬の虹詩人の渡る橋高し

  煮こごりは孤独のかたち火を入れよ

  もう父を召させ給へよ冬椿

  心拍の突とゆらぎぬ久女の忌

  舞ひ降りるあまたの胡蝶古日記

    天津日高日子穂出見は「山幸彦」の異称

  アマツヒコヒコホホデミは今霧の中


 飛鳥もも(あすか・もも) 1952年、大分県日田市生まれ。



        目夢野うのき「たましいの音色をだせり秋の花」↑

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