2016年5月24日火曜日

栗林一石路「大砲が巨きな口あけて俺に向いている初刷」(昭和12年作)・・・



小説にしろ、俳句にしろ、芸術・文芸は時代の思潮の波を受けざるを得ない。雑誌の特集によっては、それらの句の見え方も違ってくる。その意味では過ぎ去った時代に、どのような、散文が書かれ、またどのような韻文、句が詠まれ、残されたのかは、その時代背景とともに、繰り返し探られてよい課題だ。
「俳句界」6月号(文學の森)の特集は「小説と俳句が描いた時代」であり、なかでも、昭和初期の小説に小林多喜二『蟹工船』を選び、句を選んだのは、昨年以来の、我が国を戦争をできる国家へ、海外において戦争が可能となる国家への為政者による法案の整備。憲法改正が、現実的な射程に入り始めた現在、只今の情勢に相応しい特集のなかの一項目だと思われる。
大正デモクラシーの余燼(自由の謳歌と同時に徹底した弾圧)がくすぶる昭和初期、わずか10年ほどで、戦争に突入したのだ。新興俳句運動の弾圧までだって15年しかない。本特集に引用された昭和初期の句をいくつか挙げよう(因みに、一石路のブログの掲句は昭和12年作、日中戦争勃発の年)。
      
   死ぬものは死にゆく躑躅燃えてをり     臼田亞浪
   咳をしても一人             尾崎放哉
   分け入つても分け入つても青い山     種田山頭火
   つる草もつて工場が閉鎖している      橋本夢道
   まゝごとの飯もおさも土筆かな       星野立子
   あばらや屋を人垣すなる除隊かな     阿波野青畝
   巨き船造られありて労働祭          山口誓子 
  

因みに、本特集の他の時代区分を参考までにあげておくと、「元禄時代・井原西鶴『好色一代男』と元禄時代の俳句」、「明治後期の俳句と島崎藤村『破戒』」。「大正中期の俳句と志賀直哉『暗夜行路』」、「高度経済成長期の俳句と山崎豊子『不毛地帯』」。


ブラシノキ↑

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