2016年5月13日金曜日
茨木和生「蛇穴(さらぎ)とは字の名畦の草青む」(『熊樫』)・・・
茨木和生第13句集『熊樫』(東京四季出版)の「熊樫」について、植物学上の「クマガシ」は地元の平群には自生していないのだという。古事記歌謡に見える「葉廣熊白梼(はびろくまかし)」は、「平群の山に多く自生している『アラカシ』『シラカシ』『アカガシ』のいずれだと思われる。しかし、平群の山を歩いて出合う樫の木を私は熊樫だと思って句に詠んでいる。平群の山を歩く時、私は熊樫の小枝を折って、身を祓い、道を祓って山の中に入ってゆくことにしている。熊樫の持つ霊力を信じているからである」(あとがき)という。
茨木和生をが冒頭に引用した「熊樫」の出てくる古事記歌謡は、
命の 全(また)けむ人は
疊薦(たたみこも) 平群(へぐり)の山の
熊白梼(くまかし)が葉を
髻華(うず)に挿せ その子
だが、その直前の歌謡は、かの有名な、
倭(やまと)は 国のまほろば
たたなづく 青垣
山隠(やまごも)れる 倭し 美(うるは)し
何れの歌謡も、国思歌くにしのびうた)である。ちなみに(畳薦)は平群(へぐり)の枕詞とは石川淳釈にある。ならば、『熊樫』一巻もまた、めでたく国思の句にちがいない。
いくつかの句を以下に、
年よりも若いと言はれ初麗 和生
一島をあげて万歳もてなせり
降り出して空がにぎやか春の雪
頂に行かずに春の山歩く
あの世には死ぬ人をらず万愚節
白靴の泥を落して汚しけり
暮石忌の暮石詠みたる山歩く
沖に灯の点く島あらず秋の暮
列車来る時間に人来冬の暮
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