北大路翼編『新宿歌舞伎町俳句一家ー「屍派」-アウトロー俳句』(河出書房新社)、巻末の「謝辞」に、
僕の考える「アウトロー」の定義も曖昧なものであるが、これだけは言える。アウトローとは、つらさ、苦しさ、愚かさ、哀しみ、怒り、妬み、嫉(そね)みなどをすべて受け入れてしまう寛容さだ。要は愚鈍で立ち回りが下手なだけなのかもしれないが、それを優しさだと僕は思いたい。つまり、不良は優しくなければいけないのだ。
とある。そして、本書は俳句の本らしく、一応、四季の章立てが施してあるが、さすがに「厳冬」「春寒」「炎天」「秋雨」と形容の春夏秋冬である。その各章の間に北大路翼のエッセイと秋澤玲央の写真がふんだんに挿みこまれている。また、各句には、短めのコメントが付され、句の読みを補足してくれている。
(前略)そんな歌舞伎町のど真ん中。薄暗い路地の奥に「砂の城」というアートサロンがある。体重を乗せるたびに悲鳴をあげる古びた階段を三階まで上ると、八畳ほどのスペースがある。五人も座ればいっぱいになる穴倉のようなカウンターだ。
ここで僕らは新宿歌舞伎町俳句一家「屍(しかばね)派」を名乗り、句会を行っている。月一回の定例会以外にも、人が集まれば自然発生的に句会は開かれる。(中略)
途中参加も、退席も自由だ。屋根裏部屋で膝を突き合わせながら、明け方まで俳句を詠んでいる。
という。愚生は一度だけ、その砂の城に登城させてもらったことがあるが、句は作らなかった。
ともあれ、本書よりいくつかの句を以下に挙げておこう。
呼吸器と同じコンセントに聖樹(せいじゅ) 菊池洋勝
目の前でされるピンハネ懐手(ふところで) 喪字男(もじお)
もう会はぬ奴に鯛焼き買うてやる 才守(さいもり)
駐車場雪に土下座の跡残る 咲良あぽろ
口で泡作れる特技春を待つ 照子
春愁(しゅんしゅう)や喪中葉書に御飯粒 龍翔(りゅうしょう)
鞦韆(しゅうせん)やこのまま消えてしまひさう Peach(ぴーち)
さきほどのバナナですがと電話来る 二階堂鬼無子(きなこ)
カーネーション父が誰だか分からない ゆなな子
父の日の競艇場へ無料バス 津野利行
でいいやと注文されるハイボール 木内龍
片蔭(かたかげ)や一つくらいは俺のビル 天宮風牙(ふうが)
全員サングラス全員初対面 西生ゆかり
そぞろ寒(ざむ)捨てたエロ本もう一度 布羽渡(ふうど)
わしらみなアンチ巨人や月尖(とが)る 北大路翼
北大路翼(きたおおじ・つばさ) 1978年生まれ。新宿歌舞伎町俳句一家「屍派」家元。砂の城城主。
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