2020年11月22日日曜日

澤好摩「百物語のひとつ始まる時雨かな」(「円錐」第87号より)・・・


 「円錐」第87号(円錐の会)、特集は、澤好摩句集『返照』、特別寄稿に原雅子「始まりは雨」と中里夏彦「好摩の由来をご存知か」。同人よる執筆者は、山﨑浩一郎「『足さないこと』の価値」、山田耕司「うつろの影視しし者は」。原雅子は、


  百物語のひとつ始まる時雨かな

 句集『返照』はこの一句から始まる。折も折、沛然と降り出す雨。何が起ころうと、もう引き返せないではないか。心憎い導入部である。(中略)

 そして巻首に照応する掉尾の作、

  龍天に登る日和をご存知か

「ご存知か」には参ってしまう。何という粋な句だろう。『返照』一巻はこの問いかけを以て閉じる。

 と記している。また、これは連載になるらしい今泉康弘「三鬼の弁護士ー藤田一良(ふじたかずよし)と鈴木六林男 第一回」。西東三鬼名誉回復裁判を戦ったノンフィクションである。

  まず、西東三鬼名誉回復裁判とは何かー一九七九年一月、小堺昭三が『密告 昭和俳句弾圧事件』を刊行した。同書は一九四〇年から翌年にかけての新興俳句への弾圧を記したものである。(中略)

 最大の問題点は、西東三鬼を「特高のスパイ」だと、何の証拠もなく断定したことだ。三鬼を「スパイ」だと小堺に吹き込んだのは嶋田洋一である(詳しくは拙著『人それを俳句と呼ぶ』所収の「密告」前後譚」)。(以下略)

 そして、いわゆる人権派弁護士・藤田良一との運命的な出会いを描いている。今号だけで15ぺージの力作。今後の展開に興味が尽きない。ともあれ、「円錐」本号よりの一人一句を以下に挙げておこう。


   火蛾墜つる金閣音もなく崩る         栗林 浩

   からすうりすずめうりとて家古りゆく    橋本七尾子

   コロナ禍の五輪の幟夏セール        三輪たけし


   (かい)のしづく

   月(つき)のしづくと

   

   (たた)り泣(な)く          横山康夫


   春一番仕舞ひそびれし舌の数        立木 司

   長き夜は百夜の果てを見に行かむ     田中位和子

   とぎれなく質問する子春の雨        江川一枝

   置手紙とんぼとまれぬほどひかり     荒井みづえ

   未来とはわが死後のこと原爆忌       後藤秀治

   うつすらとよじとのあとを合歓の花     大和まな

   風によき事の予感や渡り鳥         丸喜久枝

   白泉忌廊下の奥の非常口          小倉 紫

   脱藩の峠はるかに鵙の贄          味元昭次

   オンライン会議は升目水中花       和久井幹雄

   菊人形にんげんはみなお出口へ       山田耕司

   二百二十日生命維持装置唸る       山﨑浩一郎

   真つ直ぐにされて蛇の死測られる      小林幹彦

   鳴き出す声を大事に秋の蟬        原田もと子

   落蝉は夢のつづきえお仰向(あおの)けに  八上新八

   仰向けにたふれ光陰惜しみたる       澤 好摩


★閑話休題・・折笠美秋「流木のついに見えない下の手よ」(「俳句界」12月号より)・・

 「俳句界」12月号(文學の森・11月25日発売)の特集は前号に続いて「大特集『今もひびく昭和の名句』後編」である。今泉康弘つながりで言えば、その総論を「『昭和俳句』考/『写生』の近代(モダン)から『言語』の脱近代(ポストモダン)へ」を書いている。

 ともあれ、絢爛たる昭和俳句の全てを紹介できるスペースはないので、ここでは「豈」同人に贔屓して、同人(池田澄子・筑紫磐井)が執筆した俳人の一句づつを挙げておきたい。ちなみに愚生は、折笠美秋と攝津幸彦を執筆させてもらったが、誌に掲載の写真(折笠美秋)は、福田葉子から貸していただいた。


    戦争と疊の上の団扇かな      三橋敏雄

    切株やあるくぎんなんぎんのよる  加藤郁乎

    杉林あるきはじめて杉から死ぬ   折笠美秋

    南国に死して御恩のみなみかぜ   攝津幸彦    



       芽夢野うのき「晩秋砂漠白い花なら水すこし」↑

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