五味真穂第一句集『湛ふるもの』(朔出版)、懇切な序は、宮坂静生。著者「あとがき」に、集名について記してある。
句集名『湛ふるもの』は、宮坂静生主宰の示して下さった幾つかの中から選びました。原句は「枯山の湛ふるものを身の内に」であり、あらゆるものを包み込み、時に飲み込む大きなものの中に生きる思いをこめました。
とあった。この句について宮坂静生は、
(前略)ところで、これは紛れもなく五味真穂だという賢明な等身大の句をあげる。
枯山に湛ふるものを身の内に
さすがに俳句歴が昇華されている。青春が過ぎた感慨だろうか。生気を沈めた冬枯れの山が身を投げ出すように作者に提供するすべてのものを素直に受け入れようと胸襟をひらく。不安はない。心中の充実感がある。
と、称揚している。ともあれ、愚生好みに偏するが以下に幾つかの句を挙げておこう。
春鹿となる木の霊のかたはらに 真穂
マスクして鳥の世界にゐる心地
寒雀地球すこしづつ温し
冬青空人はふたたび尾を持たず
水鳥についと触れたる鳥心地
ずぶ濡れの鼠死にをり桜咲く
明易し仔を捕られたる鳥叫ぶ
山上に冷たき空や天道虫
ぷによぷによの木耳舌に木の根明く
我が息と気づける音やみどりの夜
十一月の鳥の降らすは木の微塵
あまめはぎ闇の始めの一つ星
人間をはづれてゆきぬ大枯野
冬眠の亀目覚むれば令和の世
五味真穂(ごみ・まほ) 昭和29年、長野県岡谷市生まれ。
芽夢野うのき「さざんかは冬を選びて散りし花」↑
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