「澤」8月号 創刊二十一周年記念号(澤俳句会)、特集「令和二年の澤の俳句」、その「『澤四十句』を選ぶ」は、仁平勝に小澤實。そして、仁平勝と小澤實対談「小さなリアリズム/澤四十句に読む澤の二十一年」、その小見出しに「通俗さを肯定」「口語の問題」「普遍性を求めて」「動物の侵入」「倒置法は澤のスタイル」「万能の『の』」「動詞の多用」「二物衝撃はあるか」「河豚の奥の鰻」「強がりの句では」「家族を詠む」「震災を詠む」「モノの質感」「排泄物の俳諧」「地霊と向き合う」等々があり、選ばれた句を具体的に読み解く手際は、小澤實と仁平勝ならではのやりとりになっていて、読ませる。一例に 「普遍性を求めて」の一部を挙げると、
(前略) 春の日や背負つて選ぶランドセル 堀江嘉子 (中略)
小澤 背中を通しての触感というのがおもしろいと思います。このあたりいかがですか。
仁平 あるあるですものね。たしかにランドセルは背負って選びます。
目録で選ぶ棺や春の雪 オオタケシネヲ
そして棺は目録で選ぶ。こういう対照が面白と思いました。
小澤 これもまだ俳句では書かれていなかったのではないかと思います。
仁平 はい
小澤 「選ぶ棺」と「春の雪」という取り合わせはあるかもしれませんが、「目録」でというのが現代です。現代を詠むというのは、俳句にとって大事なことです。澤にとって大事なことだと思います。
ちなみに、澤20年間の40句で二人が選び合ったのは、
「事故ですか、事件ですか。」「熊です。」 限果
の一句のみ,、9000分の1になるらしい。ところで、令和2年度の40句のうちの共選は5句、以下である。
西陣は宗全が陣鳥渡る 高橋博子
刈り終へることなき夏草を刈れり 烏帽子丸
油性マジックで記す願ひや七夕祭 弓緒
ペットボトル清水に洗ひ清水汲む 金澤諒和
飛び込みの波紋より人浮かびくる 木内縉太
他に、鑑賞文に小津夜景「暮らしはつづく」、関悦史「そういえば去年の前半はマスクが入手困難で手作りする人も多かったが句材としての月並化も早かった」、正岡豊「『真摯』と『闊達』」、嶋田恵一「令和二年の秀句鑑賞」、中村麻「ツァラトストラかく詠みき」、馬場尚美「されど我らが『澤』」、山口刃心「ニューノーマル、アブノーマル」、池田瑠那「澤へ、湧水滾々ー新人会員展望」と続いている。ともあれ、以下に本誌よりいくつかの句を挙げておこう。
栄螺籠上げれば海星ぽろぽろと 川口正博(第21回潺潺賞より)
一舟もなき外海の秋澄みぬ 矢野明日香( 〃 )
鉄路も脇置く替へのレールも灼けつくす 渡邉のぶお( 〃 )
ただ聴くのみの国歌ぞ入学子も親も 金澤諒和(第21回澤新人賞)
「あなたの額に蛇が見えます」「マジですか」 白崎俊火( 〃 )
魔除けなる物ノ怪の絵ぞ春あらし 弓緒( 〃 )
白シャツたたむ一つとばしに釦嵌め 長谷川照子(第8回澤叢林賞)
遠隔会議画面顔顔顔朧 相子智恵
春月蒼し我ら進化の果(はたて)見む 池田瑠那
日蝕にかかる雲疾き泉かな 押野 裕
かなかなや弾痕しるき監的哨 梶等太郎
喰はるるは恍惚境ぞ涅槃西風 川上弘美
暑き夜の肉塊として尻掴む 榮 猿丸
滴りや死者のこゑ聞く洞(がま)の中 東徳門百合子
無花果の犬食ひをせし罪ならむ 山口方眼子
撮影・鈴木純一「野のユリや女はひとり子を生んで」↑
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