2021年8月14日土曜日

奥坂まや「窈窕と水母は老いず国老いぬ」(『うつろふ』)・・・

  


 奥坂まや第4句集『うつろふ』(ふらんす堂)、装丁は菊地信義。『妣の国』(平成23年刊)以降、令和3年1月までの370句を収載。著者「あとがき」の中には、


 『妣の国』を上梓した平成二十三年には、東日本大震災という未曽有の災厄が起こり、今またコロナという未知の疫病(えやみ)の跳梁の最中です。この十年の間、同年代の友の死も幾度か経験し、特に小学校以来の親友の逝去に対しては、心の傷が疼いてやみません。

『妣の国』は、俳句の師や先達との別れ、両親の看取りなど、私にとって死者を送る句集でした。『うつろふ』は、自ら死と向かい合う句集となったと感じています。


 とあった。ともあれ、集中より、いくつかの句を以下に挙げておきたい。


     加藤郁乎逝く

  青嵐宇宙嵐や郁乎消ゆ           まや

  蚰蜒のしやらしやら通り過ぎにけり

  色さして世より離るるははき草

  月光に兵が征くその中に父

  叫び蔵してことごとく枯木なり

  鶴帰る緋色の蒲団畳みあり

  桜散るいつもわれらを置去りに

  水無月や灯を消して部屋沈みゆく

  吹かれては日の丸古ぶ雲の峰

  実石榴のわわしく裂けてをりにけり

  星なべて自壊のひかりきりぎりす

  春風を聴いてをるかに死者の耳

  春深し木馬駆くるは地に触れず

  春の星この世限りの名を告ぐる


 奥坂まや(おくさか・まや) 1950年、東京生まれ。



         撮影・鈴木純一「うつせみと同じ軽さに蟬の秋」↑

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