2021年8月28日土曜日

坪内稔典「鬼百合がしんしんとゆく明日(あす)の空」(「鬣TATEGAMI」第80号より)・・・


 「鬣TATEGAMI」80号(鬣の会)、特集は「創刊20周年記念号1」と「坪内稔典の100句を読む(林桂抄出)」。 前者の特集の執筆者・寄稿者は、林桂「創刊二〇周年に寄せて」、久々湊盈子「継続する意志の力」、増田まさみ「『こだわり』の地平へ」、深代響「選ぶ覚悟あるいは作品とのはるかな交信」、加えて「〈創刊二〇周年・鬣TATEGAMI賞の20年〉/鬣TATEGAMI俳句賞一覧」。

 後者の「坪内稔典の100句を読む」では、論考に、林桂「坪内稔典100句を編む」、青木陽介「箱庭の迷宮」、大橋弘典「関係の希求」、吉野わとすん「ネンテン先生のダンディズム」、永井貴美子「坪内稔典百句鑑賞」。一句鑑賞には、井上久美子、蕁麻、上田玄、九里順子、後藤貴子、佐藤清美、佐藤裕子、神保喜利彦、瀬山士郎、樽見博、外山一機、永井一時、中川伸一郎、中里夏彦、西躰かずよし、西平信義、深代響、堀込学、丸山巧、水野真由美。思えば、愚生も「日時計」から「現代俳句」(ぬ書房版)に至る坪内稔典らを前に見ながら歩いてきたようにも思う。だからであろうか、見続けてきたし、見届けたいとも思うのである。林桂が、次のように述べているのは納得できるものである。


(前略)「過渡の詩」から「口誦性」「片言性」に渡った坪内を充分に了解できている訳ではないが、坪内の俳句に即して考えれば、理解できるものがあるように見える。坪内の俳句は本当は難解である。「口誦性」や「片言性」のオブラートは、その難解性を包んで丸呑みする方法と考えれば納得がいく。一見口当たりのいい坪内の句であるが、本当は結構苦いものであろう。(以下略)

  

 因みに、坪内稔典100句より、以下にいくつかを挙げておこう。


   弟半泣き ネムって冷たい木だな、おい      稔典 

   五月闇口あけてくる赤ん坊

   三月の甘納豆のうふふふふ

   朝潮がどっと負けます曼珠沙華

   がんばるわなんていうなよ草の花

   三月や崩れて岸の匂いつつ

   たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ

   桜散る沈んで河馬は水になる

   多分だが磯巾着は義理堅い

   日本に憲法九条葦芽ぐむ   


 そして、編集後記とでもいうべき「タテガミ番外地 その77」では、


◎その小誌「二〇周年特集」において、林桂、深代響は、本誌における「書評」(「二〇世紀書評」)、「二一世紀書評」を含む)、「俳句時評」、「文学館展示会時評」、「俳句史遺産」等、複合的な視点での「評」の多さを指摘する。深代は、その姿勢を「現代俳句を共時性と通時性の交点において捉えようとするものである」と書く。二〇年の歴史は、まさにその「評」の場を多角的に創出することに拘ってきた歴史ともいえるであろうし、「鬣俳句賞」や各号の特集は、それらの対象を通史的に捉えながら具現化したものと言えるだろう。(堀込記)


 と記されている。また、


 〇本号と同時に「風の冠文庫」から創刊二〇年記念の『俳句詞華集 21世紀俳句選集』(林桂編)が刊行される(六十九頁参照)。

 中島敏之は「俳句という詩型の詩を想像する不思議さ」に興味を持ち、前出の著書では真っ当な編集によるアンソロジーの大切さをくり返し記した。この詞華集を手にしたらどう読むだろう。次号特集を予定。(水野)


 とも記されている。ともあれ、以下には、その林桂編『21世紀俳句選集』(鬣の会・風の冠文庫)から、一年一句を紹介しておこう。


  遊び足りない晩夏の影のあつまりぬ    水野真由美(2001年)

  木の芽ひらき目薬日ごと緑注(さ)    伊藤信吉(2002年)

  男爵が侯爵をだく花ぐもり         江里昭彦(2003年)

  国境を引くペン先に積もる雪        藍原弘和(2004年)

  大の字の子もいるうつくしき午睡   伊藤シンノスケ(2005年)

  右足に疵ある女かえりけり         暮尾 淳(2006年)

  夕闇の酢になる頃や母が泣く        金子 晋(2007年)

  廃屋に蔓薔薇のぼり真昼かな         蕁 麻(2008年) 

  縄跳びや人はとびとびひとならび      後藤貴子(2009年)


  山河(さんが」

  遠(とほ)

  恋(こひ)しかりけり

  秋(あき)の水(みづ)           林 桂(2010年)


  前代未聞(ぜんだいみもん)の

  光量(くわうりやう

  そそぐ

     頭蓋(づがい)かな         中里夏彦(2011年)


  先生にもらひし蝶を逃がしけり       外山一機(2012年)

  生まれきて雪の昏さの中にいる      月野ぽぽな(2013年) 

  たわいなき二十世紀の銀河絵図(えづ)   丸山 巧(2014年)

  風だったこと思い出す罌粟坊主       青木澄江(2015年)

  胸に棲む人の重さよ朴の花         佐藤清美(2016年)

  芹摘むに膝ついており家滅ぶ        萩澤克子(2017年)

  ももいろの勇気で出来てゐるイルカ   吉野わとすん(2018年)

  

  撃チテシ止マム

  父ヲ


  父ㇵ                   上田 玄(2019年)           

  

  天下御免の流れ者、

  羽夷流素(ういるす)てぇんだ。 頼まぁ   林 稜(2020年)


  もの言はずもの言へぬ国黄落す       九里順子(2021年) 



撮影・中西ひろ美「行合の空にかくれてしまふ月白いレースのワンピースかも」↑

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