「垂人(たると)」40(編集・発行 中西ひろ美・広瀬ちえみ)、今号は、中西ひろ美の歩みとでもいえばよいのか、中西ひろ美編「風谷・鳴峯・走尾・垂人(2001~2021)」の総目次が掲載されている。そして「垂人」も途中までは飛沓舎で出されている。20年間の軌跡である。短詩型のみならず、詩、エッセイなども収載されているが、本号の目玉は、連載らしい鈴木純一の「超訳 芭蕉七部集/『春の日』(一)伊勢詣の巻」である。短い部分のみになるが、以下に引用しておこう。
(前略) ▽
傾城(けいせい)乳をかくす晨明(ありあけ)
霧はらふ鏡に人の影移り 雨桐
女が鏡の曇りを拭う。さっと明るくなったその中で、肘を挙げ、後ろにまわして髪を直す。襟元がはだけ乳房が覘く。手が止まった。女の後ろで、何かが動く。
俺だ。目が合った。「やだよ」女は襟をかき合わせた。
▽
霧はらふ鏡に人の影移(うつ)り
わやわやとのみ神輿(ミコシ)かく里 重五(愚生注:わやわやは踊り字)
ご神体の鏡を磨きあげ、神輿の正面に掲げる。日が高くなり、霧も晴れた。男達は、さあ来い、とばかり逸っている。肩を入れて神輿を舁き、練り歩き、揉みに揉む。押し合いへし合するものだから、鏡は上へ下へ、右に左に、前に後ろに暴れ回る。もみくちゃになっている男達の姿が映るやら、日の光が反射してあちこち跳ね回るやら、エラい騒ぎ。 (以下略)
ともあれ、本号より、いくつかの作を挙げておこう(詩篇は除く)。
青だもの花やじわじわ満ちてくる 川村研治
木の花は木の花らしく白く咲き猫はねむりの静のなかへ 中西ひろ美
ブタクサの乱舞に答えなき真昼 野口 裕
蟻が引く蟻の骸を見て泣きぬ ますだかも
来ましたよ気まぐれの木に啄木鳥が 高橋かづき
コロナに任せて悪魔はお昼寝中 中内火星
あぶくたったたべてみよ わっお月さま 渡辺信明
なみだなみだみなみからもきたからも 広瀬ちえみ
撮影・鈴木純一「秋の虹世界の正しい終わりかた」↑
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